海音寺ジョー/夢の樹(500文字の心臓)
Last-modified: Thu, 25 Jun 2020 00:00:12 JST (1373d)
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野仏の足下にボタッと、蝉が落ちた。ぼくは一瞬心がまっしろになった。ジ、ワワワとまた蝉の声が耳朶を震わせて、ああここは山の中で自分は登山をしていたのだった、と我に返った。もう夏も終わりなのだ。蝉の死骸は、そのまま土にかえる。ぼくはその蝉と、いやかつて蝉だったものと同化した想像をする。そのまま地中に溶け、細かくなり水と一緒に根に吸われて堅いセルロースの管を上昇していって、葉に至って空と邂逅する。
眼が生まれるまで、我々は世界をどうやって見ていたのだろう。皮膚が、皮膚の一部が光熱を感知していたとテレビ番組で言ってたが、ならば五感というのは何故生まれ、何をぼくらは覚知したがったのかと、またいやな好奇心が湧いてきた。
野仏は風雨に削られて、どんな顔でぼくを見ているのか見当がつかない。雨が降りそうなので、先を急ぐ。
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初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第150回競作「夢の樹」/ 参加作
執筆年
2016年?
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