海音寺ジョー/スクリーン・ヒーロー
Last-modified: Mon, 18 Oct 2021 23:57:05 JST (706d)
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終電が出てしまったあとの西武新宿線・上石神井駅前は、西部劇の無法地帯のようだ。急行準急各停すべての電車が停まる上石神井駅前の踏み切りは、常に下りっぱなしで、南北を分断している。
黎明から宵闇まで延々、延々、自動車と自転車と歩行者が澱のように溜まっており、倦怠と苛立ちと静かな怒りが湯気のように立ち込めている。
だが、深夜0時31分になると踏み切り棒の国境線が消え、劇的に南北往来の自由が生まれるのだ。咎人も思想家も、娼婦も馬喰も、流民も贋金作りも、手風琴弾きも寸借詐欺も、堰を切ったように跳梁跋扈を始める。
オレの勤めている中華料理屋はちょうどその国境に隣接していて、玄関のガラス越しに、踏み切り前の往来が覗き見える。それは場末の映画館のスクリーンのようで、見ていて飽きない。
字義そのものの、ロードムービー ほの暗い画面の中で、紅毛碧眼の乞食が、セラミック製の左の義足をカツン!カツン!と路面に打ち響かせながら、右から左へと、すなわち南から北へと、ゆっくりと横切ってゆく。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第82回競作「スクリーン・ヒーロー」 / 参加作
執筆年 
2009年?
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