よもぎ/踊る
Last-modified: Thu, 25 Jun 2020 00:37:15 JST (1185d)
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赤い靴をはいた娘は踊っていた。
踊ってばかりいたその報いに、赤い靴は脱げなくなり、
不思議と娘は倒れることも死ぬこともなく、
恍惚とした笑顔でただ町中を踊り回った。
踊る娘を初めは気味悪く思っていた町の人々も、
いつしか『蝶々が飛んできた』という程度に見慣れてしまった。
怖れのない目で見れば、娘の踊りのなんと素晴らしいことか。
時に力強くしなやかで、時に軽やかで愛らしい。
踊る娘は、けしてつまづいたり、転んだりしなかったけれども、
やはり危なかろうということで、娘のためにガラスの円形劇場がつくられた。
娘はガラスの舞台で踊りつづけ、踊る娘は町の名物となった。
町には遠くからも見物客が訪れ、『踊る娘の町』として大変に栄えた。
しかし、報いは報いだったのである。
娘は死ななかったが、確かに年老いていた。
娘がフケていくのにつれて、町はどんどん寂れていった。
やがて、町は廃虚となり、
赤い靴をはいた老婆だけが今日も踊っている。
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この話が含まれたまとめ 
選評/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第19回競作「踊る」 / 参加作
執筆年 
2002年?
その他 
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