まつじ/麦茶がない
Last-modified: Wed, 08 Mar 2023 23:29:48 JST (198d)
読む 
いったいぜんたいどうなってんだい、酷暑、太陽に敵意を覚えかける。
陽の光は焼けるように痛いし、仮にそれを避けたとしたって蒸しあげられるのではあるまいかの勢いにて汗は止まらず、室内にいるというに知らず皮膚から水分が出るわ出るわそれがまた鬱陶しい、身体に文句をいうべきか気候に怨みを吐くべきか、やる方なくて苛立つやら茹だるやら。
拘りあって冷房をつけないカレー屋である。汗がもうものすんごい。
「えっ」
と絶望に似た声をあげると、店主が申し訳なさそうに頭を垂れた。
焙じ茶の入ったグラスがたちまち汗をかく。
ついにここまで手が及んだか、と震える。
いくばくかの拘りのひとつを捨てざるをえなかった垂れ頭にもう目を向けることができず、せめて何も飲むまい、カレーを口に押し込み千円札を置いて店を出る。釣りは要らねえ。
ありがとうございました、を背後に聞く。
いったいぜんたいどうなってんだ。
汗がもうものすごい。
敵意が芽生える。
ジャンル 
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
選評/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第148回競作「麦茶がない」 / 参加作
執筆年 
2016年?
Counter: 62,
today: 1,
yesterday: 1