まつじ/金属バット10
Last-modified: Thu, 03 Dec 2020 23:34:14 JST (1564d)
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あの時ぼくは高く遠くに上がった打球が捕れなくて、ボールは高い繁みの中に姿を消した。向こうで聞こえる歓声を背にして、ぼくは慌てて後を追う。
誰かがぼくの名前を大きな声で呼んでいる。後ろの方であがる歓声。球の見つからない繁みから覗く土。地面に無造作に捨ててある金属バット。変にひしゃげたその先端と、俯せに倒れている人。生い茂る緑の葉に鮮やかに散った赤い色。遠くでぼくを呼ぶ声が聞こえる。
鈍い音が鳴って、今、僕は同じ場所に立っている。僕が殴った彼はもう二度と目を覚まさないだろう。僕は突然恐ろしくなって、その場に凶器を捨てて走り出した。
逃げながら、明日の草野球の試合のことを考えた。四回の裏、ピッチャーの放った球は完全に真芯で捉えられ、打球の消えた繁み、俯せの死体、赤く濡れた草、遠くで聞こえる歓声、先のひしゃげた凶器。
それはさっき僕が捨てた金属バットで、きっとそれをあの時のぼくが拾うのだろう。
気が付くとぼくは空高く上がった打球を追いかけていた。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第39回競作「金属バット」 / 参加作
執筆年 
2004年?
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