まつじ/生38
Last-modified: Mon, 17 May 2021 23:13:44 JST (858d)
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特にすることがなくて、怠い夏だった。
垂れ流していたテレビでは、ラーメン特集がやっていた。
なんて誰にともなく思ってみたりする。
ラーメンか。
腹が減ったな。
中身のない冷蔵庫を開いて、生ラーメン、とプリントされた袋を手に取った。
唐突に、生がそんなにえらいのか、と思った。
生ラーメンとか生ソバだとか、どうしてかメン類しか出てこないけれど、うちで炊いた米だって生米(なままい)だし、野菜いためだって生野菜いため、変だけど確かに生野菜いためなのだよな、それがフツウなのだよなと、立ったままひとりで考えをめぐらせていた。
あけっぱなしの冷蔵庫から、つめたいくうきがながれてきた。
つくえの上に置いたラーメンの袋を、しばらく見ていた。
これはほんとうに生といえるんだろうかとか考えていた。
ボーっとしていただけかもしれなかった。
そうやって見ていたら、袋のうえの生という字が、なぜか墓みたいに見えた。
外で、大勢のセミがやかましく鳴くのが聞こえた。
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初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第51回競作「生」 / 参加作
執筆年 
2005年?
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