まつじ/冷気
Last-modified: Mon, 02 Aug 2021 22:55:42 JST (1365d)
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あっはっはっは、と笑い出したのは正吉だった。いーひひイヒッヒどわははは。気でも触れたのかと思う。
何か面白いことありますかと尋ねると「いや思い出し笑い」ふたたび愉快な記憶を蘇らせたかブッフー、吹き出している。
「笑っとけ、とりあえず笑っとけ」
涙を拭きながら正吉が言った。それはともかく。
酒の勢いで、まああ怪しい屋敷に忍び込んでみようなんて話に乗ったのがいけなかった。地下にある部屋に入った途端いやあな音を立て扉がバタン、たちまち閉じこめられるという間の抜けた展開。ホラー映画ならまず冒頭で死ぬ役に間違いない、と出口の無い暗い部屋でひとり腹を抱え笑い転げる正吉を見ているのだがこれはこれでとても怖い。
音も無いが、確かに何か近付くような感じにも参る。頭がどうかなりそうで、やはり笑って誤魔化すしかないかなあ、正吉は全身全霊をかけ思い出し笑い続けるがしかし私ときたら
「腹が減ったなあ」
ぷう。
腹が鳴らずに尻が鳴り、笑ってしまう正吉と私ワッハッハ、ああ少し楽になった。とは思うものの依然として体の内に、ひやり、ひやり、迫る気配、面白いことないか面白いことないか笑い声のなか頭をめぐらせイッヒヒ。
ひやり。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第63回競作「冷気」 / 参加作
執筆年 
2006年?
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