まつじ/かつて一度は人間だったもの
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なぜならおれには胃袋がないのだから、腹がへった、なんて思うのは勘違いも甚だしいことだ。
しかしたしかに腹がへったという気がするのは何もおれに限ったことではないらしく、何を隠そう隠しはしないが人の気配はないのにどことも知れぬところから腹の鳴るのがそこここと聞こえるのが何よりの証拠といえば証拠である気がする空耳かも知らんけども。
おれは、かんがえる葦である。
かんがえていたかいなかったか定かでなかった葦だったおれは、いつか人間となったもののやがてもう人間であるのかあやふやなジジイもジジイ化したか否か、どういう経緯であろう再び葦となりこのかんがえる葦であるところのおれが今ここにいるのであった。という記憶がなんとなくある。
なので、そこらの葦とは違うのだぜ。
と、ほかの葦らもかんがえているに違いないのは、おれだけがそのような体験をするよりは逆の方がむしろ道理だとかんがえられるからで、そうしたらもうあらゆるもの様々が同じ経緯をたどり人をかこみ人知れず今も何かかんがえているのだろうとかんがえるとある意味あれも人間これも人間けったいな世の中だこと、たいへんおかしなことですね、ほらまた腹が鳴りゃあがる。
ぐう。ぐう。ぐう。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第77回競作「かつて一度は人間だったもの」 / 参加作
執筆年 
2008年?