まつじ/ツナ缶
Last-modified: Wed, 07 Jun 2023 23:25:59 JST (702d)
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田舎らしい田舎という土地では、自動販売機に巡り合うのにもひとかたならぬ苦労が伴う。なにが楽しくて徒歩、と過去の自分を呪う。しかし待てよ、呪いは私から私に放たれており、つまりその呪いが今の私に対し的確に発揮されている現況を思うと、迂闊に自分を呪うものではないなと後悔したがもう遅い。なにしろ著しい渇きによってもたらされる独特の辛苦と精神的摩耗に追い打ちをかける嘘のような落胆と絶望。
感動的に現れた自動販売機に並んだ350ml缶の些かレトロなパッケージに、あろうことかTUNAと表記されているのだ。ツナ。まさかのツナ。
ツナってそもそも何の魚だと見当違いに腹を立てても背に腹、小銭出し啜らんとするが恥ずかしそうに点灯する釣り銭切れのランプに気付いた一瞬魂抜けるや物理的に有り得ぬのではないかという速度で血液が沸騰顕在化した凶暴の脊髄反射で自動販売機は鉄屑にはならないまでもささやかに壊れたのを確認し不毛な満足の視界の端で陳列するツナ缶が、ぶるんと震える。
ぶるん、ぶるん、とツナ缶どもが震える。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第167回競作「ツナ缶」 / 参加作
執筆年 
2019年?
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