胡乱舎猫支店/投網観光開発
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:38:19 JST (1780d)
読む 
丸太を使ってログハウスを模した看板には少し風変わりな書体が木目に馴染む様に書かれていた。
「見た?」
「見た!」
いつの間にか森の手前に立っていたそれはたちまち住人達の関心の的になった。
例に漏れずここも人口減少の波が押し寄せてどっぷりと浸かりきっていたから「もしかしたら何かもたらしてくれるかもしれない」という一縷の望みに縋りたかったのだ。
「何かな?」
「何だろ?」
「ホテル?」
「キャンプ場?」
「遊園地かもよ?」
「開発だよ、開発」
「きっと凄いよ」
「凄いよねぇきっと」
結構な話題にはなっていたがいつ迄経っても何の情報ももたらされることは無かった。けれど確かめる術など幾らでもある筈なのに何故か誰もそうしようとはしなかった。
「きっと観光客がいっぱい来るね」
「来るよ」
「人出足りなくなるね」
「みんな帰って来るよ」
「他所からだって来るよ」
「増えるね、人」
「増える増える」
「祭ができる」
「祭!」
「できるねぇ」
「できるよぉ」
今もまだ立看板はある。朽ちるどころか褪せることも無く森の中に佇んでいる。風変わりな書体の上では木洩れ陽が踊っていた。
ジャンル 
カテゴリ 
この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第155回競作「投網観光開発」 / 参加作
執筆年 
2017年?
その他 
Counter: 500,
today: 2,
yesterday: 0