まつじ/シンクロ
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「おおい」
と呼ばれすべて合点がいくのは、ママあることであった。
他人の心の動きを自分と重ねて感じ見も知らぬ人間につい声を掛ける、往来で突然泣き出したくなるなど、近しい人々の間では面白がられ重宝がられもするが、気味が悪いという目で見るものもいる。信九郎自身でも気の病かと思う。医者には癇癪だといわれた。
信九郎には好きな女がいた。
女も信九郎を慕ったが、信九郎は武家の九男、女の家にも立派な嫡子がいるとなれば嫁をとることも婿になることも出来ない。
しかし、盗賊に攫われた女は今、助けに来た信九郎の前で刺され、ずんぶりと小太刀が妙にゆっくり抜ける体から流れ出た女の意識が信九郎の脳内で自分の意識と合わさりぐるぐると光速で回転し得体の知れぬ力を発し悪漢どもを打ち消したが彼らの死に際の心中まで飛び込んできていよいよ頭がおかしくなるというところに、異界の人が現われ信九郎らを救い去った。
言葉も知らないが信九郎を必要としているのは分かる。
部屋の外から片言で信九郎の名を呼ぶ声で用件は察せられるが、まだ二人で気持ちを重ねていたい思いがまた重なって嬉しくて信九郎と女は少しだけ互いの手を重ねた。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第87回競作「シンクロ」 / 参加作
執筆年 
2009年?