海音寺ジョー/ツナ缶
Last-modified: Thu, 25 Jun 2020 00:13:25 JST (1780d)
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合理性をとことん追求すると、台所はオール電化という結果となった。20歳で結婚。40歳で息子18歳、娘16歳。55歳で早期退職。住処は都市郊外のニュータウン。息子も娘も結婚を終え、大きな事故も病気も怪我もなく・・・といった堅実なよすがだ。そんな僕にとって唯一波風を立てる存在、それが悪友のドラだ。
ドラはドラ猫のドラ、いや本当は猫じゃなく小学校の同級生なんだが腐れ縁で、初老の今でも交流がある。
「堅実う?オマエ、飼い犬のクロが死んだ時、3日も泣いてたらねーか」
「そ、その程度のことは誰だってある、ほんの小石の躓きじゃないか?とるにたりない」
「お、おれあオマエの他にも友達がいるが堅実を自慢してる奴なんて一人もいねえよ、つーことはオマエもれきとした変わり者なんらよ!」
ドラは前歯のない大口開けてファファッと笑った。呵々と笑ってるつもりだろうけど、歯抜けて笛が鳴るような笑い声だ。ドラは洗ってない手でうちの台所から缶詰を取ってくると、素早く開けて中身を平らげた。その後カニ缶は仙人掌の植木鉢になり、サバ缶は灰皿になり、ツナ缶は死んだ代々のペットの線香立てになった。
一人暮らしの我が家には、偶にドラが来る。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第167回競作「ツナ缶」 / 参加作
執筆年 
2019年?
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