まつじ/仮面

Last-modified: Tue, 21 Sep 2021 23:16:30 JST (940d)
Top > まつじ > 仮面

読む Edit

 これが俗に娑婆と言われるものか、とやけに眩しい朝日の下の雑然とした風景を眺めながら悦に入る。コブ付きではあるが、大手を振って人の多い明るい町を闊歩する。

 愉快。

 とは思うが、高揚感と解放感との間に若干の緊張と恐れがある、というのも自分で分かる。

 そう体を強張らせる事はないのだよ、と丁寧な口調で言いつ並んで歩く中年男性の顔をしたひとは、厳しい目を常にこちらに向けている。

 冷静に振る舞わなければならない。

 私は、道行く適当な人に声を掛けた。

 すみません、道をお尋ねしたいのですが、よろしいですか。

 半歩後ろで、例のひとが目を光らせているが、まず落ち度は無かろう。幸い、選んだ相手も良かった。分かりませんと断られることなく、道筋を知る。

 なるほど、あの角を左に曲がり、それから七つ目の十字路を右に、あとは道なりに行けばいいらしい。

 私たちはつつがなく目的の場所に着いた。

 その建物の地下の一室を開き奥へ奥へ進むとやがて、どのようにつながっているのか、見覚えのある扉の前に出る。

 ああ、戻って来たのだなあ、本面が貰えるまではもう少し先、一体どんな顔になることだろうと考えながらお面を外すと、私は元ののっぺらぼうになる。

ジャンル Edit

妖怪わたし

カテゴリ Edit

超短編/カ行

この話が含まれたまとめ Edit

すぐ読める

評価/感想 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第72回競作「仮面」 / 参加作

執筆年 Edit

2007年?

その他 Edit

Counter: 321, today: 1, yesterday: 0