空虹桜/思い出が綺麗なんて素敵なこと()
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親元を離れて、初めて住んだ町には古い城下が広がっていて、夏の夜にはどこかここかで宵宮が開かれていた。
郊外の新興住宅地に生まれ育ったので、数ヶ月ではちっとも耳慣れぬ土地の言葉と、まるでランダムに出現する宵宮に、ちょっとした異世界みを感じていた。
「じゃあ、アタシは異世界人か?」
できたばかりの彼女の言葉に、そこまで耳慣れぬ感じがしないのは、世代の問題か、はたまた痘痕も靨的な思い込みなのか。ともかく、異世界人かもしれない彼女に、地元との違いを説明する。そもそも、寺社の数が違う。団地には寺も神社も無かったし、なにより、夏は公園に櫓を建てて盆踊りを踊ったけれど、こんなふうにいろんな場所でお祭りなんてやってなかった。
「これがお祭り?」
今日の宵宮は出店が二軒で、既に一軒は閉店済のようだ。
「出店があれば、お祭りじゃないの?」
ちょっとだけ馬鹿にされたような恥ずかしみを感じつつ口にすると、異世界人の彼女は
「祭ってのはさ」
と、世界的にも名の知れた地元の夏祭りの名を上げた。なるほど。その規模と比べたら宵宮を祭と呼ぶのは烏滸がましい。
その後、しばらくして彼女とは疎遠になったのだが、夏祭りのニュースを見る度、あの宵宮を思い出すのだけど、何処だったかは記憶に残っていないので、異世界ということにしてある。
※初稿につき、最終稿は後日公開予定。
ジャンル 
想像された伝統?、宵宮?、祭、夏、盆踊り?、異世界?、ニュース、数字、彼女、わたし
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執筆年 
2025年?