サイドストーリー /1st/八神庵

Last-modified: Thu, 25 Mar 2021 11:52:01 JST (1130d)


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エピローグ70メインストーリー4章29話読了
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1章 Edit

1話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×はぁ、はぁ……。
ここまで来ればさすがにもう大丈夫、だよね……。
〇×(みんな、無事だといいけど……。あの八神さんって人
京さんを探し回っているみたいだった。)
〇×(京さんの知り合いだってバレたらまずいことになりそう。
あの人にも見つからないようにみんなと合流しないと!)
暴徒Aグアアアアッ!
〇×……っ!
〇×(このままじゃ見つかっちゃう!
暴徒たちがいない方に逃げないと!)
暴徒Bグアアアッ!
〇×え、こっちにもいたなんて……。
暴徒Bグアアアアッ!
〇×きゃあっ!?
〇×(あれ? 痛くない……。)
八神庵ふん。雑魚め。
〇×(や、八神さん!
どうしよう、逃げなくちゃ……。)
暴徒Cグルルルァッ!
〇×きゃっ!
八神庵邪魔だ!
暴徒Cウギャアアッ!
〇×(一撃で! つ、強い……!)
八神庵女、まだ逃げてなかったとは。
よほど死にたいようだな。
〇×し、死にたくなんてありません!
八神庵なら大人しく……去れ!
〇×……っ!
暴徒Aグルアアアアッ!
〇×(えっ?
私の後ろの暴徒を倒してくれたの……?)
八神庵聞こえなかったのか?
戦えないのなら……消えろと言っている!
〇×は、はい!
〇×(八神さんの言う通りだ。私に戦う力は無い……。
今は、早くみんなに合流しないと……。)
〇×(……!
あ、あの人武器を持ってる!)
〇×八神さん! 危ない! 後ろ!
八神庵……チッ。
〇×八神さん! 怪我を!?
八神庵……これぐらい大したことはない。
〇×血が……!早く手当てしないと!
八神庵邪魔だ! 消えろ!
〇×で、でも……。
八神庵目障りだ。
消えぬというなら貴様の息の根を止める!
〇×……っ!
暴徒Cグガァァァ!
八神庵どこを見ている!
貴様の相手は俺だ!
暴徒Cガッ!
〇×(は、早く逃げなきゃ……!)
〇×はぁ、はぁ……。
〇×(あの人、私のことを庇ってくれた?
京さんを「殺す」なんて言うから怖い人だと思ったのに……。)
〇×(怪我、してたよね……。それにあの人数の暴徒……。
大丈夫かな?)
〇×(怖い人だけど……庇ってくれたのかな……。)
〇×(今度会ったらちゃんとお礼を言おう。)
〇×あ、もうこんな時間……。
そろそろ夕飯の買出しに行こうかな。
〇×(こうして、いつものように夕飯の買い出しに行って
……まるで会場での暴動が嘘みたいに思える。)
〇×(……あれ以来、暴徒にも合わないし、何も起こっていない。
KOFGの会場に近づかなければ安心なのかな……?)
〇×(暴動のこと、それからナギさんたちのことを気にして、
いつも、誰かが買い物にはついてきてくれているけど……。)
〇×(すぐ近所のスーパーだし、申し訳ないんだよね。
みなさん試合前でトレーニングしたいはずだし。)
〇×(道場を覗いてみて、まだ稽古中なら
ささっと行ってきちゃおうかな。)
矢吹真吾草薙さん、もう一度手合わせお願いしたいっす!
草薙京何度やっても結果は変わらねえぜ?
〇×(うん、みんな稽古に集中しているみたい。
よーし、出かけよう。)
〇×(今日のご飯は、鶏のから揚げと、アジのフライと、
シーザーサラダと……。)
〇×(あ、あとお醤油も買ってこないと。)
八神庵…………。
にゃあ
〇×(あそこにいるのって……もしかして、八神さん?
猫ちゃんにごはんをあげてるみたいだけど……。)
〇×あの……。
八神庵誰だ。
〇×私です。
あの、KOFの会場で助けてもらった……。
八神庵助けた……?
〇×あの……腕の怪我は大丈夫ですか?
八神庵ああ、あの時の女か……。
この程度、たいしたことはない。
〇×すみません、私のせいで……。
八神庵貴様を庇ったわけではない。
〇×で、でも!
八神庵しつこいぞ、女。これ以上俺に付きまとうな。
〇×待ってください……!
〇×(あれ? 今ここの角を曲がったはずなのにどこにもいない。
どこに行っちゃったんだろう。)
〇×(それにしてもあの怪我、結構深そうだったのに
ちゃんと手当をしていないみたいだった……。)
〇×(八神さんはああ言っていたけど、あの時、私が逃げているのを
確認していたから、暴徒にやられたように見えた。)
〇×(……やっぱり薬と包帯だけでも渡したいな。
ええと、薬局は……。)
〇×あ、もうこんな時間……!
早く帰らなくちゃ!
矢吹真吾あ! 〇さん!
どこに行ってたんですか! おれ、心配したんですよ!
矢吹真吾草薙さーん! 紅丸さーん!
〇さん帰ってきましたよー!
二階堂紅丸×ちゃん!
どこに行ってたの? 探してたんだよ!
二階堂紅丸キミに何かあったら、俺は涙で溺れてしまうよ。
……キミが無事に帰ってきてくれてよかった。
矢吹真吾〇さん、本当に心配してたんですよ~!
〇×みんな、心配してくれたんだね……。ごめんなさい。
今度から気をつけます。
草薙京…………。
〇×あの、京さん……?
草薙京なんで一人で出かけた?
〇×そ、それは……いつも着いて来てくれて申し訳ないですし、
みなさんにご迷惑をかけてしまうんじゃないかと思って……。
草薙京あんた、今の状況わかってんのかよ!?
〇×ご、ごめんなさい……。
二階堂紅丸おい京、そんなに怒鳴るなよ。
×ちゃんが心配だったのはわかるけどさ。
草薙京はぁ?
誰が心配なんて……。
二階堂紅丸へぇ? 顔に書いてあるけどな
可愛い可愛い×ちゃんが心配です、って。
草薙京お前じゃあるまいし、んなこと考えてるわけねぇだろ。
オレはただ、何かあったら迎えに行くのが面倒だからな。
二階堂紅丸へ~、そうか。じゃあ、×ちゃんのピンチには
俺が颯爽と駆けつけちゃっていいんだな?
草薙京好きにしろ。
〇×あ……。
すみません、私のせいで……。
二階堂紅丸まあ、放っておいていいんじゃないかな。
〇×でも……。
二階堂紅丸キミに対して怒っているわけじゃないよ。
二階堂紅丸あんなこと言いつつ結構真剣に探してたし、
そもそもキミがいないことに一番最初に気付いたのは京だし。
二階堂紅丸あえて言うなら、何もできない
この状況にいらついてるんじゃないかな。
二階堂紅丸ああ見えて結構真面目なんだよ。
許してやってくれる?
〇×許すなんてそんな……。
私が勝手な行動をとってしまったんです。
〇×買い物とか、出かけるたびにみなさんについてきてもらうのは
申し訳なく感じてしまって……。
二階堂紅丸それに息も詰まっちゃうよね。
折を見て俺からも京に話してみるよ。でも、当面は……。
矢吹真吾出かける時、誰かに声をかけるのはどうですかね?
黙っていなくなると、心配しちゃいますから……。
二階堂紅丸まあ、それしかないか。
矢吹真吾八神さんも、いつ草薙さんの居場所を探し当てて
襲ってこないとも限らないですし。
〇×(八神さんか……。)
〇×その、八神さんってどういう人なんでしょうか……?
京さんを殺す、って言ったりなんだか怖くて……。
二階堂紅丸あれ? ×ちゃん、気になるの?
……もしかして、ああいうヤローがタイプとか?
〇×い、いえ、そういうわけじゃないんですが。
ちゃんと聞いたことがなかったなと思って……。
矢吹真吾八神さんはずっと草薙さんのことをつけ狙っているんすよ。
〇×つけ狙う? どうして?
矢吹真吾八神さんは草薙さんの命を狙ってるんす!
とにかく凶暴で怖い人なんすよ! 話もまったく通じないし!
〇×八神さんはどうして京さんをそこまで……。
二階堂紅丸ただ憎んでいるってだけなら、むしろ話は簡単なんだが……。
一言では言い表せない深い因縁があの二人にはあるんだよ。
〇×(紅丸さん、とても複雑な顔をしている……。
これ以上、深くは聞かない方がいいのかも。)
二階堂紅丸まあ、とにかく八神にはあまり関わらない方がいい。
×ちゃんが傷つくだけだよ。
二階堂紅丸心も――体もね。
〇×……分かりました。
〇×(凶暴で話の通じない人か……。
確かに京さんに向ける視線は震えるほど恐ろしかった。)
〇×(言い方も突き放すような感じだったし、不愛想だけど……。
でも、なんとなく、そこまで悪い人には思えないんだよね。)
〇×(猫ちゃんにごはんあげてたくらいだし……。)
矢吹真吾う……、すみません。〇さんが戻ってきたら、
安心してお腹すいちゃったみたいです……。
〇×あっ! もう夕飯の支度の時間……!
矢吹真吾〇さん、今日の夕飯は何ですか?
〇×あ、鶏のから揚げとアジフライと、
シーザーサラダを作ろうかなって。
二階堂紅丸ふふっ。楽しみだな。
×ちゃんのご飯は美味しいからね。
〇×(……色々考えても仕方ないよね。
また会えたら、今度こそお礼を言おう。)

2話 Edit

+  ネタバレ注意
大門五郎もうこんな時間か。
今日はこれくらいにしておいたらどうだ。
矢吹真吾いや、草薙さん!
もう一度手合わせお願いしたいです!
二階堂紅丸はぁっ……。スイッチ入っちゃったか。
京、責任取って相手してやれよ。
草薙京断る。
矢吹真吾そんな~! 草薙さ~ん!
草薙京まとわりつくな!
大門五郎ふーむ、仕方ない。それなら、クールダウンをするために
辺りを走ってきたらどうだ?
矢吹真吾それ……いいっすね!
行きましょう、草薙さん!
草薙京なんでだよ。オレはパス。
矢吹真吾そんなぁ~! 草薙さんも行きましょうよ~!
紅丸さんは行きますよね!?
二階堂紅丸俺も遠慮しておこうかな。
セットが崩れるしさ。それに、このあと出かけるんだ。
矢吹真吾うぅ……。仕方ないっすね……。
矢吹真吾じゃあ一人で行ってきます! うおおおおー!
草薙京ったく、素直っつーかバカっつーか。
二階堂紅丸さてと、じゃあ俺もこれで。
〇×あ、みなさん、どこか行かれるんですか?
二階堂紅丸うん、トレーニングも終わったしね。
何か用事でもあったかな?
〇×買い物に行って来ようと思うんですが、
何か必要なものはあるかな、と思いまして。
二階堂紅丸俺は大丈夫かな。
二階堂紅丸……って、買い物に行くの、
いつもより随分早い時間だね?
〇×はい。明るいうちに行った方がみなさん
心配しないかなと思いまして。
二階堂紅丸うん。ヤツらがいつ襲ってくるかはわからないけど、
昼なら人目もあるからめったなことはできないだろうし。
二階堂紅丸いい判断だと思うよ。一人で行かせるのは心配だから、
できればついていってあげたいんだけど……。
二階堂紅丸あいにく、今日は用があるんだ、ごめんね。
次は必ず、キミを守るナイトになるから。
〇×ええと、京さんは……。
草薙京オレも特にねえ、と言いたいところだが、
ちょうど暇してたし、ついていってやる。
草薙京で、何を買うって?
〇×そうですね……。京さんがついて来てくれるなら
みりんやお味噌とか、まとめて買おうかと思います。
草薙京おいおい、真吾じゃあるまいしオレは荷物持ちじゃねえぞ。
〇×真吾くんは確かに何でも持ってくれますね。
草薙京アイツは素直なのが取り柄だからな。
〇×ふふっ。
京さんと真吾くんはとても信頼し合っているんですね。
草薙京は? どこをどう聞いたらそうなるんだよ
〇×(京さんは認めないだろうけど、真吾くんの話をしている時
とても楽しそうなんだよね。)
〇×(格闘家って、家族や友達じゃなくても、お互い信頼し合っていて
……そういう関係ってなんだか羨ましいな。)
〇×(でも、同じ格闘家なのに八神さんはどうして
京さんを殺す、なんて物騒なこと……。)
草薙京ん?
難しい顔してどうした?
〇×あ……格闘家のみなさん……テリーさんたちも
戦っていない時は仲間、という感じなのに――
〇×どうして八神さんだけ、京さんに対して
ああいう感じなんでしょうか……。
草薙京あ? 八神?
〇×う……すみません、話すのが嫌だったら良いんですが……。
草薙京別に嫌ってわけじゃねえよ。
八神……あいつは、見たまんまだぜ。
〇×(見たまま……誰も寄せ付けないような雰囲気で、
すごく怖かった…….京さんは怖くないのかな?)
草薙京ん?
〇×ええと、その……真吾くんと紅丸さんから
少し八神さんのことを聞いてしまって……。
〇×京さんはその……怖くないのですか?
ああやって付け狙われて……。
草薙京あー……なんつーか……。
草薙京まあ、あんま気にすんな。
あれがヤツのライフワークみたいなもんだ。
〇×でも……「殺す」なんて言われてるのに……。
草薙京めんどくせえなとは思うけどな。
そんなの気にしてたらKOFなんて出られねえよ。
〇×(なんだかあまり話したくなさそうだな。
これ以上は聞かないでおこう。)
〇×ありがとうございました。
……そうだ、京さん、今日の夕飯は何がいいですか?
草薙京お、リクエストしていいのか?
それなら――
〇×(えっ? あれは……)
草薙京八神!
八神庵京!
貴様を殺す!
草薙京チッ……めんどくせぇのに見つかったな。
八神。こんな町中でやろうってのか?
八神庵場所など関係ない。
今日こそ決着をつける!
草薙京聞く耳持たねえ、か。
草薙京×。こいつはなんとかするから、一度道場に戻ってろ。
〇×で、でも……。
八神庵貴様は……。
草薙京八神!
てめぇの相手はオレだろ!
草薙京×。オレが注意を引きつける。
〇×でも、京さんは……?
草薙京ここで相手にすると面倒だ。
適当なところを回って撒く。
八神庵何をコソコソ話している!
いくぞ!
草薙京いいぜ! 相手してやるよ!
……オラッ!
八神庵グッ……!
草薙京どうした? なまってんじゃねえか?
八神庵おのれ……!
〇×(八神さん、右腕を庇ってる?)
草薙京八神、オレについてこい!
もっと広いフィールドの方がお互いやりやすいだろ?
八神庵いいだろう。
〇×あっ、京さん……!
〇×(私を逃がすために、移動してくれたんだ。
今のうち道場まで帰ろう!)
〇×(それにしても、八神さん、すごく怖かった……。
やっぱり、助けてもらったっていうのは私の勘違い……?)
草薙京はぁー……疲れたぜ……。
〇×京さん! 怪我はありませんか?
草薙京ああ。なんともねえよ。
〇×よかった……。
あの、八神さんはどうなったんですか?
草薙京あ? 撒いてきた。
いや、しつこかったのなんのって……。
草薙京あいつ、いつものスーパーの方に戻っていったみたいだな。
あの辺に隠れ家があるのかもしれねえ。
〇×八神さんの隠れ家が、あのスーパーの近くに?
草薙京多分な……今日のであんたのこともバレしまったみたいだから
あのスーパー行くときは気をつけろよ。
〇×わ、わかりました。
〇×(あのスーパーの近くに、八神さんの隠れ家があるなら
また、会うかもしれないな……。)
〇×(……さっきの八神さんを思い出すと怖いし、京さんの
知り合いだってバレた今、どんな態度を取られるか分からない。)
〇×(そう考えると、今度八神さんに会ったとき、
どうすればいいんだろう……。)
〇×(……さっきの八神さん、明らかに腕の傷を庇ってた。
もしかしたら、あれから悪化したのかもしれない。)
〇×(……手当とか、したのかな。
ううん、あんな人のこと、気にする必要ないよね……。)
〇×(でも、本当に私のせいで怪我したとしたら……。)
〇×(……考えすぎても仕方ない! 次見かけたら、
お礼を言ってお薬を渡して、終わりにしよう!)
〇×(八神さん、本当にスーパーの近くにいるのかな?)
八神庵…………。
〇×(あ! 本当にいた!)
〇×こ、こんにちは。八神さん。
八神庵貴様は……。
八神庵京はどこにいる。
〇×ええと……京さんは……
今日はお留守番です。
八神庵……ならば、用はない。
〇×あ!
待ってください!
八神庵……貴様。なぜついてくる。
〇×あなたに用事がなくても私にはあるんです!
はい、これ。
八神庵これは、なんだ?
〇×消毒液と包帯です。
腕の傷、なんだか治りが遅いようですし……。
〇×化膿しているんじゃないかと思いまして……。
ちゃんと消毒しないと……。
八神庵いらん!
〇×あっ、待ってください!
〇×(……いない。
逃げられちゃったのかな。)
〇×(もうしつこくしないほうがいいかな……。)
〇×(それにしても、八神さんは、
こんな路地裏で何をやっていたんだろう?)
にゃー。
〇×え? 猫ちゃん……?
にゃー……。
〇×(一生懸命なにかを舐めている……これって、ミルク?
……もしかして、八神さんが?)
〇×(京さんに対して「殺す」って言ったり、
京さんを見る目はすごく怖かったのに……。)
〇×(猫ちゃんを見る目は優しかった……気がする。)
〇×(やっぱり、KOFの会場でも私のことを助けようと
してくれた……?)
〇×(本音をいえば、もう関わりたくない……だけど……。)
〇×(本当はどういう人なのか、確かめたい……明日、
あの猫ちゃんがいたところにもう一回行ってみよう。)

3話 Edit

+  ネタバレ注意
矢吹真吾ご馳走様っすー!
いやあ、今日の朝ごはんもめっちゃ美味しかったですよ!
〇×ふふ。ありがとう。
みんなたくさん食べてくれるから、本当に作り甲斐があるよ。
〇×(よし、このあと片づけをしたらスーパーに行って、
猫ちゃんにミルクをあげたのが八神さんなのか確認をしてこよう。)
アナウンサー数日前に暴動騒ぎが起きたKOFの会場で、暴動が
起こっているようです。現場のリポーターに繋いでみましょう。
リポーターはい、こちら渋谷です。KOF会場前では、
朝から反対派が集まっており、抗議活動を行っています。
リポーター怪我人もすでに数人出ており――
二階堂紅丸まったく。嫌なニュースが続くね。
〇×これまでにこんな風にお客さんが暴れたことはないって
言っていましたよね。どうして今回、急にこんなことに……。
矢吹真吾ん~何度考えてもわからないですね。
〇×(こうして毎日みなさんと食卓を囲んでいると
平和だなって思うけど、まだ何も解決していないんだな……。)
草薙京考えたってしょうがねえだろ。
草薙京……にしても、やっぱり×、
単独行動は辞めた方がいいんじゃねえか。
〇×え? どうしてですか?
草薙京忘れたのかよ。あのナギ、だったか?
あいつにご指名されてんだろ。
草薙京それに八神にもオレの連れってことがバレたからな。
矢吹真吾え!? 八神さん?
何かあったんですか?
草薙京ああ。買い物に行く途中に襲われてな。
矢吹真吾ええっ……そうなると、〇さんが一人で行動するのは
やっぱり心配ですよね……。
〇×(で、でもみなさんがついて来ちゃうと、
八神さんのことを調べられなくなっちゃう……。)
二階堂紅丸…………。
二階堂紅丸まあ、気持ちはわかるけどさ。
二階堂紅丸×ちゃんだって幼稚園児じゃないんだから
いつも一緒に行動するって言うのはどうなのかな。
矢吹真吾でも……。
二階堂紅丸×ちゃんもお前たちみたいなむさくるしい格闘家が
ずっとそばにいたら息が詰まるんじゃない?
二階堂紅丸だいたい、女の子はヤローに知られたくない買い物も多いんだよ。
ね、×ちゃん。
〇×(紅丸さん、私が自由に出かけられるように
気を遣ってくれてるんだ……話を合わせよう。)
〇×そうですね。
化粧品とか洋服とかを見たいと思う日もありますし……。
矢吹真吾なるほどー。確かの女性の買い物は長いですよね。
……あ! 悪い意味じゃないですよ!
二階堂紅丸とはいえ、×ちゃんのことが心配って言うのはわかる。
だから、出かけるのを絶対、昼間だけにしてもらうとか……。
二階堂紅丸何かあったらすぐに携帯で連絡を取れるようにしておくとか。
二階堂紅丸それでいいなら、すぐに駆けつけられるよう
俺が携帯を常に気に掛けておくよ。
〇×ありがとうございます。
紅丸さん。
二階堂紅丸……っていうわけで、携帯の番号教えて、×ちゃん♪
〇×ふふふ。いいですよ。
草薙京まぁ、確かにちょっと過保護すぎたか。
〇×いえ、京さんたちの気持ちはとても嬉しかったです。
だから、なるべく明るいうちに行動するようにしますね。
〇×(ええと、スーパーの道の脇のこの辺りに……。)
にゃー。
〇×こんにちは。今日もここにいたんだね。
〇×(首輪もしていないし、ずいぶん痩せているな……。
捨て猫なのかな?)
八神庵……何をしている?
〇×や、八神さん。
八神庵そこをどけ。
〇×(ミルク! やっぱり、八神さんが猫ちゃんにあげていたんだ。
しかもちゃんと猫用のミルクで……。)
八神庵……何を見ている。
なぜ、ここに来た。
〇×す、すみません。
この包帯と消毒薬を、渡そうと思っただけで……。
八神庵何度言わせる。不要だ。
〇×でも、その傷は私を庇ったから……。
八神庵何度も言わせるな。
俺には貴様を庇うつもりなど無かった。
八神庵俺は無関係な女を助けるような情は持ち合わせていない。
……貴様の勘違いを押し付けられても迷惑なだけだ。
〇×私の勘違い……そうでしょうか?
八神庵何?
〇×八神さんは、京さんを「殺す」と言ったりして
怖い人だと思います……。
〇×……だけど、猫ちゃんを助けたり、優しい部分もあって
正直よくわからないです。
〇×助けたいという気持ちがなければ、弱っている猫ちゃんに
餌をあげ続けるなんてことしない、ですよね……。
〇×八神さんって本当は……どういう人なんですか?
八神庵ふん。これは……ただの気まぐれだ。
にゃー。
〇×この子はそうは思っていないみたいですよ?
ほら、こんなに八神さんに懐いています。
にゃー。
八神庵ふん……。
八神庵俺は、弱いものが嫌いだ。
無力なまま朽ち果てていくものが、な。
八神庵……もし、あの会場で貴様を助けていたとしたら、
ただ、それだけの理由だ。
八神庵特別な理由など、何もない。
……わかったら、去れ。
にゃー。
八神庵……懐くな。
にゃー。
八神庵…………。
じゃれつくな、と言っている。
八神庵いいか、次同じことをしたら貴様を……殺す!
にゃー!
八神庵…………。
〇×(……な、なんだか……困ってる?)
〇×(八神さんってあんなに怖かったのに……
なんだか、不思議な人だな……。)
八神庵……何を見ている。
〇×す、すみません。
仲、いいなと思って……。
八神庵…………。
何故今日はそんなにじゃれつく。
にゃー……。
〇×(あれ?
もしかして……調子が悪い?)
……にゃう……。
〇×だ、大丈夫!?
〇×(どうしよう……。
もしかして何か変なものでも食べたのかな?)
八神庵…………。
〇×八神さん、
早く病院に連れて行きましょう!
八神庵不要だ。
〇×えっ……?
八神庵この小さな生き物の命はここまでだ。
ここまで生きたのだから、せめて最後を看取ってやる。
八神庵……生きるものは、必ず死ぬ。
その時期が異なるだけだ。
〇×でも……ダメです!
まだ助かるかもしれないんですから、諦めるなんてダメです!
〇×絶対、この猫ちゃんは助けます!
八神庵必要ない。
〇×八神さんが行かなくても、
私が病院に連れていきますから……!
〇×このままじゃ猫ちゃんが死んでしまうかもしれません!
〇×救えるかもしれないのに、何かできるかもしれないのに、
手を伸ばさないなんて……助けないなんて……。
〇×私は、そんなのは嫌です!
八神庵しかし、その猫が持つ宿命がある。
それなら、捻じ曲げるな。
八神庵ここで死ぬとしても、その猫の運命だ。
受け入れろ。
〇×……嫌です!
それが運命だって言うなら、そんな運命、私が変えます!
八神庵……っ!
何故だ……。
〇×……だって、この猫ちゃんは、
まだ生きたいと思っているから……。
八神庵……何故そんなことがわかる。
〇×さっきから、私に助けを求めるように
手を伸ばしています。
〇×だったら、私に助けを求めるのなら、
私はその手を取る……それだけです。
八神庵おい、女。待て――
〇×(猫ちゃんはただの食べ過ぎだったみたい……。
まだ治療は必要だけど、命に別状は無さそうでよかった。)
八神庵…………。
〇×八神さん! 待っていてくれたんですか。
八神庵ふん。どうなったか結末を見届けようと思っただけだ。
にゃー。
八神庵生き延びたか。
……ふん、ずいぶんお節介な女に見つかって、運がよかったな。
〇×(八神さん、笑った……?
やっぱり、八神さんは……。)
暴徒Aグルァアアア!
〇×(っ、こ、こんな時に……!
暴徒が!?)
〇×八神さん!
この猫ちゃんを連れて逃げてください……!
八神庵何?
〇×私はあの人たちと戦えませんから……。
猫ちゃんを守れるのは八神さんだけです。
八神庵……貴様はどうするつもりだ。
〇×……上手く逃げます。
〇×この人たち、私の行く先に現れるような気がするので、
どこか人気のない場所に……。
八神庵……貴様の行く先に現れる……だと?
暴徒Aグルァアアア!
〇×時間がありません!
猫ちゃんの世話をお願いできますか。
〇×静かなところで安静にして、
この薬を毎食後一滴ずつ飲ませてあげて……。
八神庵チッ。
……こっちだ!
〇×や、八神さん……!?
〇×はぁ、はぁ……。
こ、ここは……。
〇×(もしかして、八神さんの隠れ家……?)
〇×どうして、私を……。
八神庵ここならしばらく奴らから姿を隠せる。
それだけだ。
八神庵……勘違いするな。その弱き生き物の運の尽きまで
付き合ってやろうと思っただけだ。
〇×(つまり、猫ちゃんの世話を
してくれるっていうことかな。)
〇×(でも、どうして私までここに……?)
八神庵おい。
〇×は、はい。
八神庵この猫の世話は貴様がしろ。
〇×えっ?

4話 Edit

+  ネタバレ注意
八神庵おい。
〇×は、はい。
八神庵この猫の世話は貴様がしろ。
猫を助けた以上、貴様には面倒を見る責務がある。
〇×も、もちろん、そのつもりですが……。
八神庵ならば、いい。猫の寝床くらいは俺が提供する。
静かなところで安静にしなければならないんだろう。
八神庵ここにいれば余計な騒音や外敵に苛まれることはない。
猫も静養できるだろう。
〇×八神さん……ありがとうございます。
八神庵礼などいらん。
それより、猫に薬をやらなくていいのか。
〇×あっ、はい! 注射器を使って、
口の横から一滴垂らしてあげて……。
にゃー……。
〇×ごめんね、ちょっと我慢しててね。
〇×……これでよし、と。
んにゃ…………。
〇×猫ちゃん、疲れてたみたいですね。
薬飲んだらすぐ眠っちゃいました。
八神庵そうか。
〇×それじゃあ、次は八神さんの番です。
八神庵……?
〇×八神さん。KOF会場では本当にありがとうございました。
八神庵……まだ言っているのか。
あれはたまたま……。
〇×はい。でも、それで私が助かったのも、
八神さんが怪我をしたのも事実ですし。
〇×だから、その怪我の治療をさせてほしいんです。
八神庵…………。
八神庵わざわざそんなことを言うために
俺の後をつけ回していたのか。
〇×つけ回すって……。
八神庵こんなものはいらないと言っている。
〇×でも、ちゃんと手当をしないと怪我は治りませんよ。
せめて消毒だけでもさせてくれませんか?
八神庵……好きにしろ。
〇×はい。好きにします。
〇×(やっぱり、酷い怪我……)
〇×……ごめんなさい。しみますよね?
八神庵……別に。
〇×はい、これで終わりです。
えっと、包帯は……。
八神庵自分でやる。
〇×はい、わかりました。
八神庵……くっ。
〇×(八神さん、なんか苦戦しているような……。
もしかして、うまく巻けないとか?)
〇×(八神さん、もしかして不器用?
ふふふ。意外な一面もあるんだな……ちょっとほっとしたかも。)
〇×貸してください。やりますよ。
八神庵……ああ。
〇×……はい、できました。
八神庵…………。
〇×それじゃあ、私はこれで。
〇×あ、さっきも言いましたけど、猫ちゃんに
薬あげてくださいね。毎食後、この薬を注射器で……。
八神庵…………。
〇×(薬をあげるのって結構大変なんだよね……。
八神さん、大丈夫かな?)
〇×(え? 今の音ってもしかして……。)
〇×八神さん、お腹がすいているんですか?
八神庵だったらどうだと言うんだ。
〇×(そういえば、この部屋って殺風景だしあまり生活感がないな。
台所もないしどうやって、ご飯を食べているんだろう?)
〇×(……どうしよう。なんだか猫ちゃんのことも
八神さんのことも放っておけないな……。)
〇×(京さんを殺すって言ったり、猫ちゃんを見捨てようと
したけど、八神さんも生活能力がないというか。)
〇×(なんだか、お世話をしたくなるというか……。)
〇×……あの、八神さん。
私、これからもここに通ってもいいですか?
八神庵何?
〇×猫ちゃんのお世話はもちろんですが、
その、八神さんのことも気になるので……。
八神庵……勝手にしろ。
〇×……はい。勝手にさせてもらいます。
それなら、食事も持ってきていいですか?
八神庵飯だと? どういうことだ?
〇×ええと、私、道場でみなさんの分の食事を作っているんです。
一人分くらい増えても変わらないかなあって。
八神庵…………。
〇×……あの、迷惑だったらすみません。
八神庵……猫の面倒を見るついでなら、構わん。
〇×……! あ、ありがとうございます。
八神庵用がなければ来るな。
〇×う……。わかりました。
それでは、これからよろしくお願いしますね、八神さん。
八神庵ああ。…………。
〇×あ、そういえば名乗ってなかったですね。
私の名前は〇×です。
八神庵……ふん。
気が向いたら覚えておく。
〇×お待たせしました!
夕ごはん出来ましたよー!
矢吹真吾やったー!
楽しみにしてたんすよ!
二階堂紅丸へぇ、今日は天ぷらか。
本当に色々な料理が作れるんだね。
〇×ふふ。今はネットでいろんなレシピを検索できますからね。
矢吹真吾ネットさまさま! 〇さんさまさまっすね!
いっただっきまーす!
〇×(っと、八神さんの分を取り分けておかないと。)
〇×(それにしても、勢いで食事を持っていくって言っちゃったけど
夜出かけたら、みなさんとの約束を破ることになっちゃうよね。)
〇×(でも、近所だし。大体、こんなことになる前は通勤で
もっと遅い時間に繁華街を通っていたし……。)
草薙京おい、お代わり。
〇×あ、すみません!
今持って来ますね。
二階堂紅丸なんか今日のごはん、量が多くない?
〇×え、そうですか!?
矢吹真吾きっとたくさん食べてほしいって言う
〇さんの気持ちですよね!
〇×う、うん!
そういうこと!
二階堂紅丸へぇ~、そうなんだ。ありがたいな。
じゃあ、俺もお代わりもらえる?
〇×はい! 今持って来ます!
〇×(勢いで昨日ああ言ったけど、八神さんに会いに行くって
みなさんに申し訳ないな……。)
〇×八神さん?
八神庵……来たか。
にゃー。
〇×ふふ。猫ちゃんもすっかり居ついたんですね。
八神庵目の前でチョロチョロ動かれるのもうっとうしいがな。
〇×(態度は相変わらず、か……。)
〇×はい、お待たせしました。
食事を持って来ましたよ。
八神庵そうか。
〇×美味しいですか?
八神庵……悪くないな。
〇×お口に合ったならよかったです。
ええと、また明日も来るとき持って来ますね。
八神庵…………。
〇×ええと、猫ちゃんにもご飯を食べさせて……。
なんだか、猫ちゃんって呼び続けるのも言いづらいですね。
〇×何か名前を付けてあげませんか?
八神庵名前……。
〇×何がいいかなあ……。
八神さん、何かいいアイディアありますか?
八神庵……ツァラトゥストラ。
〇×つ……なんですか?
八神庵ツァラトゥストラ。
昔どこかで見た本のタイトルだ。
〇×なるほど。とても格好良い名前だと思います!
……でも、ちょっと長くて呼びにくいかも。
〇×うーん……そうだ!
「つーちゃん」はどうでしょうか?
八神庵……好きにしろ。
〇×ありがとうございます。
つーちゃん、ごはんを食べたらお薬を飲もうね。
にゃー。
ナギふうん、ここが庵の隠れ家か。
ヨミもう【交渉】を開始されますか?
ナギううん、まだやめておくよ。
もっといいタイミングがあるだろうから、ね。
ヨミかしこまりました。
ナギふふ。八神庵。
君に祝福を授けてあげるよ――

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2章 Edit

5話 Edit

+  ネタバレ注意
八神庵今日も来たのか。
貴様も懲りん奴だ。入れ。
〇×すみません、お邪魔します。
〇×(伊勢に行くかどうか考えなきゃいけない。
けど……気がついたら足がここに向いていた。)
にゃー!
〇×ふふっ、つーちゃん、すっかり元気になりましたね。
八神庵ああ。
〇×これ、今日の食事です。どうぞ。
八神庵そうか。…………。
〇×(八神さん……一応食べてはくれてるけど、
口に合ってるのかな?)
〇×(もう結構な回数届けに来てるけど、
いつも無言で食べてるし……うーん……。)
八神庵…………なんだ、人の顔をじろじろ見て。
〇×あ、いえ、お口に合ってるかどうか気になって。
八神庵不満はない。
〇×それならよかったです。
…………。
八神庵…………。
〇×(うーん……気まずい……。
何か話題ないかな……。)
八神庵貴様、どうして浮かない顔をしている。
〇×え? あ、えっと、黙ったままなのもよくないかなと思って
話題探しを――
八神庵そうではない。ここに来た時から、
浮かない顔をしていただろう。
八神庵まるで悩み事を抱えているとでも
言わんばかりにな。
〇×悩み事……そうですね、その通りです。
八神庵くだらんな。迷いなどただの足かせでしかないだろう。
〇×ですが、もし失敗して、みなさんに迷惑をかけたらと思うと
ためらってしまうんです。
八神庵……それは、京にも関わることか。
〇×京さんだけではありません。
この世界の人全員に関わることです。
〇×もちろん、八神さんにも。
八神庵…………。
〇×信じられないかもしれませんが、
この世界を壊そうとしている人がいるんです。
〇×そして、私にはその人を止める力がある……
かもしれない。
〇×けどまだ確信が持てないというか、
自分の力が信じられないというか……。
〇×力を上手く使いこなせずに、
みなさんに迷惑をかけたらと思うと、不安になるんです。
八神庵力、か。
それで、貴様はどうしたいんだ。
〇×もちろん、私の力でみなさんを……世界を救えるなら
そうしたい、と思います。
八神庵……。
〇×すみません、急に変な話しちゃって。
八神庵悩みがあるだろうと貴様に聞いたのは俺のほうだ。
何を謝る必要がある。
〇×すみませ……あっ。
八神庵…………フン。
〇×(八神さん……私のことを元気づけようと
してくれた、のかな……?)
にゃー。
〇×ふふっ。つーちゃん、楽しそうに遊んでますね。
八神庵ああ。
〇×あれは紙のボール?
八神さんが作ってあげたんですか?
八神庵作ったというほどではない。
〇×(ふふ、でも楽しそうに遊んでる。)
にゃー。
〇×どうしたの? これ、開いてほしいの?
ええと……。
〇×これは……バンドのチラシ?
八神さん、こういう音楽を聞くんですか?
八神庵いや。これは、ただの地図代わりだ。
〇×地図?
八神庵ああ。ここのライブハウスで演奏するんだが、
道がかなり入り組んでるから、と押し付けられた。
〇×演奏!?
もしかして、バンドをやってるんですか?
八神庵ああ。
〇×(八神さんが……バンド!?)
〇×ええと、ギターですか? ボーカルですか?
八神庵ベースだ。
〇×ベース……。
〇×(八神さんが、ベースを弾く? どんな感じなんだろう。
失礼だけど、全然想像がつかないな……。)
〇×(ちょっとだけ、見てみたいかも……。)
八神庵貴様、興味があるのか。
〇×は、はい。八神さんがどんな演奏するのか、
気になります。
八神庵来るか。
〇×え?
八神庵ライブ。チケットを手配してやる。
来たいならば来るがいい。
〇×い、いいんですか? ありがとうございます。
その、おいくらでしょうか?
八神庵そんなものはいらん。
〇×で、ですが……。
八神庵飯の礼だ。素直に受け取れ。
〇×……わかりました。
ありがとうございます。
〇×(八神さんのライブ……どんなライブなんだろう。
楽しみだなぁ……。)
〇×(もうすぐ開演時間か……。
なんだかドキドキしてきちゃった。)
女性Aいおりーん! 早く出て来て~!
〇×(い、いおりん……?
八神さん、人気ある人なんだな……。)
女性Aいおりん見られるの、久しぶりだよ~!
この間のライブ、チケット買えなかったからさ。
女性Bプレミアついてたんだっけ。このライブも即完売だったよね。
私たちホント運よかったよね~。
〇×(そんなに人気のライブなの……!?
それなのに八神さん、チケットを手配してくれるなんて……。)
〇×(申し訳ない気がするけど、せっかく頂いたチケットだし、
めいっぱい楽しませてもらおう。)
〇×(あ、始まる……!)
ボーカル渋谷、盛り上がってるかー!?
ボーカル今日は八神もいるぜー!
八神庵…………。
〇×(八神さん、ステージの上でも、すごい存在感……。)
八神庵…………始めるぞ!
〇×(……八神さんの声で始まったステージは圧巻の一言だった。)
〇×(ステージの上の八神さんは、今までに見たことがないほど
情熱的な表情でベースを弾いていた。)
〇×(……ステージの上の八神さんから、
何故か目が離せない……。)
〇×(器用に動く長い指、ギターとのセッション、
ライトを浴びてのベースソロ……。)
八神庵…………。
〇×……!
〇×(……もしかして、八神さんのこと、
ずーっと見てたの、バレてたのかな……?)
〇×(ええと、終わったらここで待っているように言われたけど……。)
〇×(……どんな顔して会えばいいのかな。八神さん、今までと
全然違う感じだった……。あんな一面もあるんだ。)
〇×(……すっごくかっこよかった……。
なんだか、まだ頬が熱い……。)
ボーカル今日はお疲れ八神!
相変わらずお前のベースは世界一だな!
八神庵くだらん。それより人を待たせている。
ボーカル人? あ、もしかしてあっちで待ってる女の子?
こんばんは~。八神がお世話になってます!
〇×あ、えっと、こちらこそお世話になってます……!
その、ライブお疲れ様でした! すごくよかったです!
ボーカルありがと! 優しそうないい子だな~。
八神にこんなかわいい彼女がいたなんて。
八神庵おい。
ボーカルははは、悪い悪い。それじゃ、邪魔しちゃ悪いし、
俺はここで失敬するよ。
ボーカルお嬢さん、八神のことよろしくな!
〇×あ、は、はい……!
ボーカル八神も、また都合ついたらライブやろうぜ!
八神庵……ああ。そうだな。
〇×(彼女って言われたのはびっくりしたけど、
八神さん、バンドの人とあんなふうに話すんだ。)
〇×(八神さんのことを知れるって、
なんだか嬉しいな……。)
八神庵くだらん茶番に付き合わせたな。
〇×ふふっ、大丈夫です。
あらためて、ライブお疲れ様でした。
〇×とってもすごくて……本当にかっこよかったです!
八神庵……そうか。
楽しめたならよかったな。
〇×それに、チケットありがとうございました。
完売してたそうなのに……。
八神庵あのライブハウスには何度も出ていて、融通が利く。
気にするな。
〇×……本当にありがとうございました。
今度、何か差し入れをお持ちします。
八神庵……気にするなと言っている。
〇×わかりました。じゃあ、今回はお言葉に甘えますね。
八神庵ああ。
〇×(なんだか、さっきまで、ステージにいた人と話していると思うと
ちょっと緊張するな……。)
八神庵少しは気がまぎれたか。
〇×え?
八神庵貴様の浮かない顔、少しは晴れたようだ。
〇×(もしかして八神さん、私を元気づけるために……?)
八神庵…………!
〇×八神さん……?
暴徒Aグオオオオッ!!
〇×――!

6話 Edit

+  ネタバレ注意
暴徒Aグウウウ……ッ。
〇×(ぼ、暴徒が……!
いけない、足がすくんで動けない……。)
暴徒Aガアアアッ!
八神庵はっ、ふっ、はあっ!
暴徒Aグアッ!
八神庵怯んだか。今のうちに逃げるぞ。
八神庵……ここまで逃げれば追ってこれまい。
〇×はぁ……はぁ……すみません……。
八神庵近頃、妙に暴れる輩が増えてきているな。
厄介だ。
八神庵そういえば以前同じようなことがあったとき、
貴様は言っていたな。
八神庵貴様の行く先に現れる気がする、と。
何か心当たりでもあるのか。
〇×……はい。以前お話した、私の悩み……
世界を壊そうとしている人たちに、関係があります。
八神庵そうか。…………。
暴徒Bウウ……グウウッ……。
八神庵この先にも暴徒がいる。奴らを避けて帰るぞ。
〇×あっ、はい!
〇×(そういえば八神さん、さっきも暴徒は
怯ませるだけで戦おうとはしなかった。)
〇×(八神さん、京さんを「殺す」なんて言うから
戦いに目がない怖い人のかと(原文ママ)思っていたけど……。)
〇×(もしかしたら、思っていたような人と、
ちょっと違うのかもしれない。)
〇×(……八神さんやみなさんに迷惑かけないためにも、
暴徒をこれ以上増やさないためにも……。)
〇×(やっぱり私は伊勢に行くべきだ。
力のことは不安だけど、やれるだけやろう。)
八神庵おい、何を呆けている。
貴様を道場まで送る、さっさと来い。
〇×あっ、す、すみません! ありがとうございます!
八神庵……ここまで来ればもう大丈夫だろう。
〇×はい。わざわざありがとうございました。
あの、気をつけて帰ってくださいね。
八神庵気をつけて?
俺を誰だと思っている。
〇×ふふっ。そうでしたね。
八神庵ああ。
草薙京×? それに八神……
どうしててめえらが一緒にいるんだ?
八神庵京! ふふふ……よくぞ俺の目の前に現れた。
月も貴様の断末魔を今か今かと待ちかねているぞ!
草薙京だったら代わりにてめえの断末魔を聞かせてやれよ。
草薙京っつーかおい×、何夜中に外出てんだよ。
一人で行動すんなって約束したろ。
〇×すみません……。
草薙京……まあ、あんたも気分転換くらいしたい時は
あるだろうけどよ。
草薙京にしてもなんだって八神なんかと一緒に。
八神庵貴様が知る必要などない。
草薙京まあ、他人のプライベートに
踏み込むつもりはねえけどさ。
草薙京×、これから伊勢に行くかもしれねえって時に
勝手な行動はすんなよな。みんな心配してんだぞ。
〇×はい、すみません……。
八神庵伊勢……?
草薙京じゃあな、八神。せいぜいオレを殺す夢でも見て
幸せな気分で夜を明かせよ。
八神庵貴様こそ、それがいずれ正夢になる日を
震えて待っているがいい。
草薙京……帰ったか。
おい、×。
草薙京あんまうるせえことは言いたかねえけど、
八神に近付くのはやめとけよ。
草薙京あいつは、あんたが思う以上にやばい奴だ。
オレだって相手すんのがめんどくさくなるくらいにはな。
草薙京……それにしても、八神が女を送るなんてずいぶん
珍しいこともあるんだな。
〇×そうなんですか?
草薙京ああ。あいつは優しさとか情っていうのから
最も遠い位置にいるヤツだ。
草薙京目的のためなら女だろうと容赦はしない。
草薙京……だから、あいつには近づかない方がいい。
〇×(本当に、そうなのかな……。私が知っている八神さんは
京さんたちが言うような人ではない気がするけど……。)
〇×……わかりました。気をつけます。
草薙京ああ。
草薙京ま、あいつを手懐けるのは慣れてるしな。
もしものときはオレがなんとかしてやるよ。
〇×て、手懐ける……?
草薙京ふあ……それにしてもマジで眠ぃ……。
ここんとこ伊勢行きの準備でバタバタしてるせいかな。
〇×あ、京さん! その伊勢行きのことなんですが……。
〇×私、頑張ってみようと思います。
みなさんには、明日きちんと話をするつもりです。
草薙京…………あんた、なんかちょっと顔つきが変わったな。
八神に何か吹き込まれたか?
〇×それは……内緒です。
草薙京へっ、そうか。まあ、あんたの好きにしろ。
〇×はい。頑張ります!

7話 Edit

+  ネタバレ注意
八神庵明日から伊勢に行く、だと?
〇×はい。以前もお話したと思いますが、
世界を壊そうとしている人たちがいて……。
〇×私にはそれを止める力があるかもしれなくて、
そのために、私は伊勢に行きます。
八神庵京も伊勢がどうのと言っていたな。
それで、わざわざ俺に報告しにきたのか。
〇×伊勢に行くとなるとしばらく食事を持って来れなくなりますし
つーちゃんのお世話もできなくなるので……。
にゃぁ……。
〇×ごめんね、つーちゃん。
全部無事に終わったら、また会いに来るから。
八神庵……京も、伊勢に行くのか。
〇×は、はい。道場のみなさん、
全員で一緒に行くことになってます。
八神庵そうか。…………。
八神庵…………猫のことは俺が見てやる。
貴様は伊勢にでもどこへでも行くがいい。
〇×はい。……すみません、ありがとうございます。
八神庵貴様は本当に礼と謝罪ばかりの女だな。
〇×たくさんお世話になってますから。
この決心をつけられたのも、八神さんのおかげです。
八神庵俺が何をしたと言うんだ。
〇×八神さんのライブで元気づけられたこと、
八神さんが暴徒との争いを避けたこと……。
〇×それを見て、もう暴徒が増えたりしないように
私にできることはやろうと思ったんです。
八神庵それは貴様の意思だ。俺の行動は関係ない。
〇×でも、八神さんに勇気づけられたことは確かですから。
八神庵…………。
〇×それでは、出発の準備がありますので、
ここで失礼しますね。
〇×つーちゃん、またね。
にゃあ!
八神庵…………。
〇×(よし、頑張ろう!)
八神庵京……そしてあの女が伊勢に行く、か……。
八神庵……伊勢。今日は伊勢に何をしに行くと言うのだ……?
ヨミ無駄なことを。
ナギ本当に、そうだね。
八神庵――! 貴様ら、いつの間に……。
フーッ!!
ナギふふっ、ヒメが近頃かわいがっている猫だね。
いい子、いい子。
シャーーッ!!
ナギ……そんな目で見られるなんて、悲しいな。
八神庵無駄話はやめろ。なんの用だ。
ナギヒメのことを気にしているようだからね、
そのことで話をしに来たんだよ。
八神庵ヒメ……?
ヨミ〇×のことだ。
奴らは、泉の浄化のため伊勢に行く。
八神庵浄化だと?
ナギ暴走する人々を止めるため……みたいだけど、
そんなことをしても無駄なのにね。
ナギ神世界ができればこの世界は変わる。
そうすれば、ヒメも、みんなも、苦しまなくて済む。
ナギ泉を浄化することは、ヒメがただ無意味に
疲れて行くだけなんだ。
八神庵それを俺に話してなんになると言うんだ。
ヨミあの女のことを気にかけていたようだったからな。
ヨミ聞けば動じ、こちらに応じるかと思ったが、
見当違いだったか。
八神庵節穴もいいところだな。あの女の容態など、
俺の知ったことではない。あの女に興味はない。
ナギ当然だよ。だって彼女は、僕と結ばれる運命なんだから。
ナギそしてその運命に、君の力が役に立つ。
君に流れる、オロチの血が。
ナギオロチの血からと僕の力。二つが混ざり合えば、
きっと素晴らしい力が君に宿る。
ナギそれは神世界を創る大切な礎となり、
僕とヒメの、新しい世界ができあがる。
ナギだから、君に力をあげる。
敗者復活戦の始まりだよ。
八神庵ウ……ぐう……っ!?
貴様、俺に何を……!
ナギ祝福さ。
ナギそれじゃあね、八神庵。
神世界でまた会おう。
八神庵はぁ……はぁ……祝福、だと……?
八神庵京……京……!
俺は、貴様を……!! オオオ……!
にゃあ……。
ゴロゴロ……。
八神庵っ……。
猫の分際で……俺を、気遣ってるとでも言うのか……!
八神庵(力の抑制が効かん。
……このままではこの猫の命はなくなるだろう。)
八神庵(そうなれば、あの女がどんな顔をするか……。)
にゃ?
八神庵何故だ……っ、何故あの女の顔が浮かぶ……!
にゃあん!
八神庵……しばらく、貴様の面倒が見れなくなる……っ。
にゃ……。
八神庵……安心しろ。事が済めば、また貴様の面倒を見る。
それまでは……。
八神庵ハァッ……ぐっ、ライブハウスの奴らなら、
貴様を、よくしてくれるはずだ。そこにいろ……!
にゃあ!
八神庵(ナギとヨミ……俺に何をしたのか必ず問いただしてやる。
祝福だと? ふざけるな……っ。)
八神庵…………っ。

8話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×(泉の浄化は残すところあと一つ。だけど、
どんどん自分の身体が蝕まれているのを感じる。)
〇×(でも、やらなきゃ。世界を、
みなさんを守るために……。)
八神庵ククク……ハッハッハ……!
ハァーハッハッハッハ!
ビリー・カーンチッ! ……どうなってやがる!?
草薙京オロチの力が暴走した、だと……?
泉の瘴気のせいか……!
八神庵グ……キョォォォォ!
コロス! キョォォォォ! コロス!
〇×(あの時の八神さん、まるで暴徒のようだった。
ううん、それ以上に強い力を感じた。)
〇×(京さんが言っていた、
オロチの力っていったい――?)
〇×――っ、誰!?
八神庵…………。
〇×八神、さん……。
八神庵泉では、世話になった。その礼を言いに来た。
〇×(いつもの八神さんみたい。無事でよかった……。)
〇×八神さんにケガがなくてよかったです。それにしても、
まさか泉で八神さんに会うなんてびっくりしました。
八神庵…………。
〇×あの、つーちゃんはどうしてますか?
八神庵ライブハウスの者に預けている。
悪いようにはしないはずだ。
〇×そうですか。……戻ったら、
すぐに顔を見せてあげたいですね。
八神庵顔を見せに行くだけの気力が貴様に残っていればな。
八神庵まるで病人のような顔色をしている。
それでは顔を見せたところで猫を不安がらせるだけだ。
〇×あ、えっと……ここのところ山道を歩いたり、いろいろ
浄化したりしてたので、疲れが溜まってるんだと思います。
八神庵疲れ……。
〇×少し休めば大丈夫ですから、これくらい平気ですよ。
八神庵…………。
〇×八神さんのほうこそ、身体、大丈夫ですか?
その、泉では大変なことがありましたし……。
八神庵これまでにも何度かあったことだ。
貴様が気にすることではない。
〇×(……八神さんが話したくないのなら、
無理に聞かない方がいいよね……。)
〇×わかりました。でも、もしまたあんなことになっても、
私の力でなんとかできるかもしれません。
〇×だからそのときは――
八神庵いらん。
〇×ですが……。
八神庵いらんと言っている。
〇×…………すみません。
八神庵貴様が謝るようなことではない。
俺は俺自身でこの力を飼い慣らす、それだけのこと。
〇×(八神さんの力……。いったい、どんな力が八神さんを
あんなふうにしてしまっているんだろう。)
〇×(少しずつ八神さんのことを知れていると思ったけど、
まだまだ知らないことだらけだ。)
〇×(もっとこの人の、
八神さんの助けになれたらいいのに……。)
八神庵貴様は……。
八神庵貴様は、己の身に何があろうともその力を行使し、
目的を果たすつもりか?
〇×……はい。世界を、そしてみなさんを守りたいですから。
もちろん、八神さんのことも。
八神庵……フン、くだらん。
八神庵用件は済んだ。ではな。
〇×(泉を浄化して、世界を守って、
そして八神さんと一緒につーちゃんを迎えに行こう。)
〇×(……今夜の月は、なんだかいつもよりきれいに見えるなぁ……。)
八神庵ウ……グ……ウオオオオッ!!
〇×……! や、八神さん!?

9話 Edit

+  ネタバレ注意
八神庵オオオ……グオオオオオッ!!
〇×(八神さんが暴走してる……!
と、止めないと……! 泉の時と同じように、八神さんを……。)
〇×八神さん! お願いします、元に戻ってください!
〇×(……いけない、頭がくらくらする……
けど、八神さんを止めなきゃ……!)
八神庵ウウウッ、キョォオオオオ!!
〇×ど、どうして……!?
お願い、元に戻って……!
八神庵ウ、ウウ……お、女……き、さま……
グウウ……!
〇×(す、少し元に戻った? もう一息……!)
二階堂紅丸おい、なんの騒ぎだ!?
草薙京八神……!? なんでてめえがこんなところに!
八神庵ウウウウ……グオオオオオッ!
草薙京チッ……ボディがガラ空きだぜ!
八神庵ガアッ!!
〇×京さん! 泉の時のように私が八神さんを浄化します!
だから……――っ!
二階堂紅丸×ちゃん! 疲れてるんだから無理しないで。
草薙京こいつの相手はオレのほうが慣れてる。
喰らいやがれええええっ!
八神庵ぐう……っ!
――お、俺、は……。
草薙京正気に戻ったか八神。
八神庵俺は、また……。
〇×はぁ……はぁ……八神さん、よかった……。
二階堂紅丸×ちゃんが必死に八神を浄化しようとしたんだ。
感謝しなよ。
八神庵女……何故だ。
〇×だて……八神さんが、心配、だから……
はぁ、はぁ……。
八神庵それで己が疲弊してもか。貴様、死んでも知らんぞ。
八神庵…………。
草薙京あっ、おい待て八神!
草薙京……って言って待つ奴じゃねえか。あー、痛え……。
〇×京さん、怪我を……。すぐに消毒薬と包帯持ってきますね。
草薙京あんたのほうがしんどそうなのに手間かけられるかよ。
それより、なんで八神がここにいたんだ?
〇×それは……泉で私が八神さんの暴走を止めたお礼を
言いにきてくれたみたいで……。
草薙京へえ、あいつにもそんな律儀なとこあんだな。
二階堂紅丸レディに優しい一面が、八神にねえ。
〇×帰ろうとしたところで暴走して、泉の時のように浄化して
止めようと思ったんですが、上手く行かなくて……。
草薙京そりゃそうだろ。あいつの相手なんざ、
簡単にできるようなもんじゃねえからな。
二階堂紅丸むしろ泉ですんなりできたのが奇跡ってくらいだよ。
×ちゃん、すごいね。
〇×そうなんですか? ……あの、八神さんの暴走の
原因って、いったいなんなんでしょうか?
〇×泉ではオロチがどうとか、と
言っていましたが……。
草薙京……この先一緒に行動する以上、
アンタには話しておいたほうがいいかもな。
二階堂紅丸またいつ八神が来るかもわからないし、ね。
草薙京八神には、オロチの血っつーもんが流れてる。
その血のせいで、あいつは暴走するんだ。
〇×そのオロチというのは、どういうものなんですか?
二階堂紅丸なんというか、地球そのもの? って言えばいいのかな。
二階堂紅丸まあ、ナギのように世界をどうこうできるくらいの力を
持ってるとんでもないヤツさ。
二階堂紅丸そして遥か昔に、人類を滅ぼそうとしたオロチを、
京たちの先祖が力を合わせてオロチを封印した。
〇×つまり京さんや八神さんのご先祖様は、
オロチと戦う人たちだったってことですよね?
〇×それなのにどうして八神さんにオロチの力が……。
草薙京封印して何百年か経ってから、八神の一族が
オロチの力を欲しがったんだよ。
草薙京オロチと契約を結んで、八神の一族はオロチの力を
使うようになった……って言われてる。
〇×そんなことが……。でも、そんな力に振り回されて、
八神さんは大丈夫なんでしょうか?
二階堂紅丸ああ――あの暴走のせいかわからないけれど、
八神家は代々、短命だと言われているね。
〇×短命……!?
二階堂紅丸恐らく、あいつだって同じだろう。
〇×(八神さんが……短命……。)
〇×……八神さんの暴走の原因のことはわかりました。
離してくれてありがとうございます。
草薙京ああ。とにかく、あいつにはあまり近づくな。
あの暴走は並の人間にどうこうできるもんじゃねえ。
草薙京オロチの血が暴走したら、軍人も手こずるくらい
やべえことになったりするからな。
〇×(京さんたちは、
本当にすさまじい経験をしてきたんだな……。)
〇×(それに、八神さんに宿るオロチの力……。)
〇×(……どうにか、できないのかな……。)

10話 Edit

+  ネタバレ注意
ヨミふむ……まだ息はあるようだ。
……だが、殺す価値もない。
ヨミせっかくナギ様が祝福をお与えになったというのに、
使えぬ失敗作め。
八神庵…………待て。
ヨミなんだ。
八神庵祝福とはなんだ。
俺にいったい、何をした。
ヨミ……まあ、話してやってもいいだろう。
ヨミオロチの血の力を増幅させる。ただそれだけのことだ。
八神庵それが祝福、だと?
ヨミ草薙京を殺す力が授けられる。貴様にとっては
最上の祝福ではないか?
八神庵俺には既に京を殺す力がある……っ、俺は……。
ヨミならば何故殺さない?
今すぐにでも殺せばいいではないか。
八神庵…………。
ヨミ所詮、貴様は弱者。はかない命を持つ、な。
神世界の礎にもなれぬ、弱い人間だ。
ヨミ力を増幅させることで貴様の強さを引き出し、
神世界の礎として役立てようとナギ様はお考えだったが……。
ヨミやはり弱者はどうあがいても弱者なんだ。
ヨミだが、弱者にも弱者なりの役目がある。
神世界の生け贄となる役目がな。
ヨミせいぜい、生け贄になるまでの時間を
好きなように過ごしているがいい。
八神庵(……ふざけたことを……。)
ヨミナギ様からの伝言だ。
ヨミ『簡単にオロチの力に飲まれるなんて
意外と弱い人間なんだね』と。
ヨミしょせん、お前では草薙京に勝てない。
ナギ様はお前を見限ったのだろうな。
ヨミ……失敗作に用はない。
それが神世界の決定だ。
八神庵くっ……。
八神庵俺が弱い……京に勝てん……失敗作、だと……?
あの男、戯言を……。
八神庵う、ぐ……はぁ、はぁ……。
八神庵………………。
八神庵……少し、気分を変えに行くか……。
ボーカルあれ、八神! 戻って来てたのか?
八神庵……ああ。
にゃーん!
ボーカルははは、つーちゃんも八神が帰ってきて喜んでるみたいだな。
八神庵猫が、世話になっている。
ボーカルいいっていいって。観客からもかわいがってもらってるし。
で、なんだ? 今日は演奏しにきてくれたのか?
八神庵1曲だけな。
ボーカルじゅーぶん! いいサプライズになるぞ~。
女性Aきゃーっ! いおりーん!
女性Bなんで? 今日いおりん来るって言われてたっけ?
ボーカル今日はサプライズだ!
八神の演奏、しっかり聞いて帰るんだぜ!
八神庵…………。
八神庵(…………思うように指が動かん。
チューニングも甘い……俺としたことが抜かったか。)
女性A……なんか、かっこいいのはかっこいいけど、
今日のいおりん、いつもと違わない?
女性Bうん……元気がない気がする……。
ベースにも迫力ないし……。
女性Aいおりーん! がんばって~!!
八神庵…………。
ボーカルお疲れ。今日のお前、らしくなかったな。
何かあったのか?
ボーカルあ、あの彼女と喧嘩したとか?
八神庵彼女ではない。喧嘩もしていない。
ボーカルあれ? そうだったんだ。まあ、なんだ。
なんかあったらいつでも言えよ。
ボーカル……って、お前は人に相談とかするような奴じゃないか。
にゃーん。
ボーカルつーちゃんもお前のこと心配してるみたいだし、
今日は連れて帰って一緒に過ごしてやれよ。
にゃあ。
八神庵…………。
八神庵(あの女の力のおかげか、暴走は落ち着いている。
多少なら、構わんか。)
にゃー!
八神庵……フン。行くぞ。
ゴロゴロゴロ……。
〇×(よし、次の泉に向かう準備は
こんなところで大丈夫かな……。)
〇×(八神さん、あれからどうしてるんだろう。
少し、電話してみてもいいかな……?)
〇×(……八神さん、出てくれるかな。)
〇×(八神さん……電話に出て……。)
八神庵……俺だ。
〇×八神さん! よかった、出てくれた!
八神庵なんの用だ。
〇×そ、その、この間暴走してましたから、
身体とか大丈夫なのか気になって……。
八神庵大したことはない。
……貴様には、くだらんものを見せたな。
〇×くだらなくなんて……。あの後、京さんたちから聞きました。
八神さんのご先祖様のことや、一族のことを……。
八神庵京め、余計なことを。
八神庵……貴様は、今どうしている。
〇×次に浄化する泉が見つかったので、
出発する準備をしているところです。
〇×出発前に、八神さんの声が聴けてよかった……。
八神庵……貴様は、まだ世界を救うなどということを
考えているのか。
〇×もちろんです。それが私の使命……だと思いますから。
八神庵使命……それが、己の意思とは関係なく
与えられたものだとしてもか。
〇×はい。
八神庵それで己の身体が疲弊していく一方だとしてもか。
〇×はい。疲れてるのはみなさんも同じですし、
きちんと休めば大丈夫ですから。
にゃーん!
〇×あれ、その声……つーちゃん?
八神さん、お家に戻ってるんですか?
八神庵ああ。
〇×無事に帰れたようでよかったです。
食事や休養はしっかりとれてますか?
八神庵余計なお世話だ。
〇×すみません……八神さんのことが気になっちゃって。
八神庵……何故貴様はそこまで、己のことより
他人のことを気遣おうとする。
八神庵己が疲れても、俺の暴走を止めようとして
何故そのようなことができる。
〇×それは……大切な仲間、だからでしょうか。
大切な人にはやっぱり元気でいてほしいですし。
八神庵貴様がそう思うように、貴様が疲弊した姿を見るのは
避けたいと思う者がいるとは考えないのか。
〇×え……?
八神庵…………。
〇×(八神さん、私のことを気遣ってくれてる……?)
〇×……そうですね。気を付けます。
ありがとうございます、八神さん。
矢吹真吾〇さーん、ちょっといいですかー!?
〇×あ、うん! すぐ行くね!
すみません八神さん。呼ばれてるので、この辺で。
八神庵ああ。
〇×その……元気でいてくださいね。
八神庵貴様もな。
にゃーん!
〇×ふふっ。元気に帰ってきて、
またつーちゃんのお世話してあげないと。
〇×それでは、失礼します。
〇×(……よし、頑張ろう。)
八神庵大切な仲間、か。戯言を。
ゴロゴロゴロ……。
八神庵(まだ、あのヨミとかいう男に殴られた箇所が痛む。
容赦のない男だ。)
八神庵(あの女は、浄化する力を使えば疲弊する。
それは、俺の暴走に対しても同様だ。)
八神庵(……俺はあの女をどうしたいのだ。
あの女が疲弊したところで、俺にはなんの関係もない。)
八神庵(だが、あの女を無駄に疲弊させるわけにはいかん。
だからあの女に近づかん……と考えてしまっている。)
八神庵(俺が他人に気を遣うなど……。)
にゃあ。
八神庵……おい、なんだ。膝に乗るな。動けんだろう。
八神庵クソッ、勝手な猫め。俺の膝は寝床ではない。
八神庵…………今だけだからな。

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3章 Edit

11話 Edit

+  ネタバレ注意
草薙京博物館の下見は終わり、と。
あとはマキシマが書類の偽装すんのを待つだけか。
〇×世界を救うためとはいえ、誰かを騙すのは
心が痛みますが……頑張らないといけませんね。
草薙京背に腹は代えられないしな。
ま、結果を出せばいいんだよ結果を。
草薙京にしてもマキシマの野郎、なんだってオレに
下見の役目なんか押し付けやがったんだ。
草薙京めんどくさいぜ、ったく。
〇×私ひとりで下見に行くのは不安でしたし……
付き合わせてすみません、京さん。
草薙京まあ、あんた一人行かせて何か起きるよりは
マシだけどよ。
草薙京また八神の野郎が現れるかもしれねえしな。
〇×(八神さん……五つ目の泉に行く前に電話したきり、
連絡できてないけど、どうしてるんだろう。)
〇×(電話しても出ないし、無事だといいんだけど……。)
草薙京――と、そうだ。帰りにちょっと本屋に寄っていいか。
紅丸からファッション雑誌買ってきてくれって頼まれてんだ。
草薙京えーっと、ファッション雑誌はどこだ?
〇×結構大きな本屋ですから、探すの大変そうですね。
……あ。
草薙京ん、あったのか?
〇×あ、いえ、ちょっと気になる本を見つけたので……。
〇×(ツァラトゥストラはかく語りき……。)
〇×(つーちゃんに名前をつけるとき、
八神さんが言っていた本ってこれかな?)
草薙京つぁら……なんだこれ。
〇×哲学書みたいです。八神さんが以前、
ちょっとこの本のことを話していて……。
草薙京へーえ、あの八神がねえ。あいつのわけわかんねえ言動って
ひょっとしたらこういうのから来てるのかもな。
〇×(八神さんは、昔どこかで見た本、としか
言ってなかったけど……。)
〇×(つーちゃんの名前にするくらいだし、
実は何か思い入れがあるのかも。)
〇×(読んでみれば少しは八神さんの気持ちに近づけるかな……。)
〇×(うーん、買ってみたのはいいけど、
哲学書って難しい……。
〇×(永劫回帰……人生は嬉しいことも悲しいことも
まったく同じように何度も永遠に繰り返すということ。)
〇×(その永劫回帰による運命をあるがまま受け入れ、
愛することを運命愛と言う……か。)
〇×(うーん、難しいな……。嬉しいことも悲しいことも
全部受け入れる、か。)
草薙京おいおい、そんなしかめっつらしてどうしたんだよ。
〇×あ、京さん。本屋で買った本を読んでるんですが、
なかなか難しくて……。
草薙京まあ、八神が口に出すようなもんなら
わけわかんなくて当然だよな。
〇×(運命、か。八神さんに宿るオロチの血も
私のこの力も運命……なのかな。)
〇×あの、京さん。運命ってどう思います?
草薙京紅丸がよく女口説くときに使う言葉って
イメージだな。出会えたこの運命に感謝、とか。
〇×え、えっとそうじゃなくて、
この本に書いてあったんですが――
草薙京なるほど。運命をあるがまま愛する、ね。
オレは胡散臭いなとしか思えねえが。
〇×自分の運命を受け入れることで、
人は強くなる、人を越えて超人になる……。
〇×と、この本には書いてあります。
でも、受け入れるって簡単なことじゃありませんよね。
草薙京まあ、な。けどまあ、
なんだかんだで慣れてくるもんだとは思うぜ。
草薙京八神とやりあうのも、別に受け入れたってわけじゃねえが
何度も戦ってる内になんていうか、当たり前みたいになった。
〇×京さんと八神さん、そんなに長い間戦って来たんですか?
確か、ご先祖様の頃から繋がりがあるとか……。
草薙京そうらしいな。昔は家同士で争ったこともあったらしいが、
正直オレからしたらそんなことはどうでもいい。
草薙京ただ八神の野郎がいけすかねえからやり合う。
それだけだ。
草薙京たぶん、八神も同じようなこと考えてんじゃねえかな。
家だのなんだの気にするタイプじゃねえし。
〇×京さんは、八神さんのことをよく知ってるんですね。
草薙京嫌でもわかっちまうんだよなあ。うんざりするけどよ。
〇×(そう言いながらも、京さんは八神さんの相手をする。
これって、受け入れてるってことだよね……。)
〇×……京さん、ありがとうございます。
本に書いてあること、少しわかった気がします。
草薙京そうなのか? よくわかんねえけど
まあ、あんたがそう言うんならそれでいい。
マキシマおーい京。博物館のことで相談があるんだが。
草薙京ああ、すぐ行く。
んじゃ、本読むのもほどほどにして、いい加減休めよ。
〇×はい、ありがとうございます、京さん。
〇×(あるがまま、運命を愛する……
少し、心がけてみよう。)

12話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×(博物館で暴徒に襲われた時は
どうなるかと思ったけど――)
ジョー・東おばちゃん! お好み焼きのおかわりくれ!
おばちゃんAええでー! じゃんじゃん食べるんやで!
〇×(わかってくれる人もいるんだって知れて
本当によかった。)
テリー・ボガードこっちも頼むぜ!
矢吹真吾あっ、こっちも!
〇×(……八神さん、ごはんちゃんと食べてるかな?
ここで一緒に食べられたら、なんて……。)
〇×(――え、八神さんから電話!?)
〇×す、すみません、ちょっと失礼します!
〇×も、もしもし?
八神庵俺だ。
〇×っ……、八神さん! よかった、ここのところ
電話しても出ないので何かあったのかと……。
八神庵ああ。貴様の着信履歴がしつこいから
かけてやった。
〇×す、すみません。
八神庵別に謝れとは言っていない。
……心配、かけたか。
〇×こうして元気そうな声が聴けたので大丈夫です。
つーちゃんも元気ですか? 食事はきちんととれてますか?
八神庵貴様が心配するようなことはない。
そっちはどうだ。
〇×今日は嬉しいことがあったんです。みなさんが
暴徒に襲われてる子どもたちを助けて……。
〇×それでいろんな人から感謝されて、
格闘家への誤解がちょっと解けて。
〇×頑張ってきてよかったって思いましたし、
これからも頑張ろうって思いました。
八神庵フン……。貴様らしいな。
〇×これから私たちは、また次の場所に向かいます。
この世界を守るために。
八神庵自らの身体を犠牲にしてまでもか。
〇×……はい。
〇×あの、この間、
ツァラトゥストラはかく語りきを読んだんです。
〇×その中に、運命愛という言葉がありました。
嬉しいことも悲しいことも、自分の運命を愛し、受け入れること。
〇×そうすることで人は強くなれる、
ということみたいで……私もそうありたいと思ったんです。
〇×この力を運命だと思って前に進もう、って。もちろん怖いと
思うこともありますから、簡単には行きませんが……。
八神庵そう考える精神が大事だと、そう言いたいのだな。
〇×……はい。
八神庵ならば俺の、京を殺すという使命もまた、
繰り返されるべき運命というものだ。
八神庵京を殺すことは俺の喜び。京を殺し、俺も死に、
そしてまた次の人生で俺は俺として京を殺す。
八神庵それはとても素晴らしい人生だ。
〇×え、えっと、殺すとかそういうのは
私はおっかないなと思うんですが……。
〇×八神さんはそう思うことで、オロチの血のことも
受け入れようとしてるんですよね。
八神庵貴様の目にはそのように映るのか。
〇×勝手な思い込みだったらすみません。
八神庵貴様がそう思うのならそれでいい。
それで、俺が受け入れていたらどうだと言うんだ。
〇×八神さんのその運命を、少しでも私の力で
支えられたら……なんて思ったんです。
〇×私には八神さんの暴走を抑える力がある。
その力で、少しでも八神さんの支えになれたら……。
〇×つーちゃんを助けたときのように、
八神さんも助けたいと思います。
八神庵俺は猫と同じと言うことか。
〇×そうじゃなくて……例え運命だとしても、
自分の力でどうにかできるならどうにかしたい。
〇×もしかしたらどうにかすることも含めて
運命なのかもしれませんが……。
〇×と、とにかく、自分がやりたいことを
大事にしたいと思うんです!
八神庵だがそうすることで貴様は疲弊する。
死ぬかもしれんのだぞ。
八神庵自らを犠牲にして俺を生かし、貴様は何を望む?
〇×それは……やっぱり、八神さんのことを
助けたいと思うからでしょうか……。
八神庵だが貴様が死んでは、俺を助けることも叶わんぞ。
八神庵死にたいのか……?
〇×…………。
八神庵死にたくなくば、これ以上俺につきまとうのはやめろ。
〇×……嫌です。
八神庵…………。
〇×死にたくもありませんし、
八神さんが苦しい思いをするのも嫌です。
〇×私は、八神さんを助けたいんです。
八神庵偽善だな。
〇×それでも構いません。
八神庵…………。
八神庵借りを作るのは好きではない。貴様が俺の支えになると
言うのならば、俺も相応のことはしてやる。
八神庵ではな。
〇×電話、切れちゃった……。
〇×(相応のことはしてやるって、どういうことだろう……?)
〇×(それにしても、八神さんと話せて本当によかった。
なんか、ちょっとドキドキしてる気がする……。)
〇×(……月がきれいだな。)
八神庵今宵の月はいい色をしている。
八神庵(あの女に近づけば、あの女は俺を助けようとする。
ならば、あの女に近づかずに独自に動けばいいこと。)
八神庵(……俺を失敗作呼ばわりした奴らがいけすかない。
あの女のことは……二の次だ。)
にゃあん。
八神庵貴様はもうしばらく、ライブハウスの世話になれ。
俺にはまだすべきことがある。
にゃー。
八神庵……次に顔を合わせるときは、あの女も一緒だ。

13話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×(いよいよ洞窟に向かう……。
気合入れて行かないと……。)
草薙京……おい、待て。なんかこの先に嫌な気配がする。
矢吹真吾えっ、も、もしかして暴徒とか?
草薙京いや、この感じは……。
八神庵京!!
〇×八神さん!
草薙京……やっぱりな。てめえ、何しに来たんだよ八神。
悪いが、今お前の相手をしてる暇はないぜ。
八神庵承知の上だ。だからこそ俺は京、
貴様の目の前に立ちはだかっている。
草薙京ったく、こんなところで余計な体力
消耗したくねえってのに……。
矢吹真吾ややや、八神さんっ! お、おれたちは今、大事な用事が
あるんですっ! あ、あなたに構ってる暇はありませ――
八神庵雑魚は黙っていろ。
矢吹真吾ひいっ! や、やっぱり怖い……。
八神庵貴様らの動向については把握している。
そこの女から聞いていたからな。
矢吹真吾えっ!? 〇さん、いつの間に!?
〇×ご、ごめんね。隠してたわけじゃないんだけど……。
草薙京まあ別に変なことしてるわけじゃねえし、
そこはいいんだけどよ。
矢吹真吾く、草薙さんも知ってたんですか!?
八神庵ナギとヨミと戦う。
貴様らのその意志に付き合おうと思った。
八神庵奴らの好きになどさせん。
草薙京八神と意見が合うなんて、気持ち悪ぃことも
あるもんだな。
草薙京八神お前、ナギとヨミと何かあったのか?
八神庵貴様には関係のないことだ。
二階堂紅丸とはいえ、ある程度はそちらの手の内を明かしてもらわないと
こっちとしても警戒心は解けないんだけどね。
八神庵…………。
〇×あの、八神さん、お願いします。
ナギさんとヨミさんと何があったのか教えてください。
八神庵…………奴らは以前、俺の目の前に現れ、
俺の短命の呪いを解いてやる、と言った。
八神庵自分たちの力となれば、京以上の力を与える、
とも言っていた。
八神庵そして俺に、祝福というものを与えたらしい。
オロチの血を増幅させるものだそうだ。
草薙京ああ、最近の八神が妙に激しかったのって
そのせいだったのか。
〇×祝福……。
リョウ・サカザキ呪いを解く……祝福、か。奴らの常套手段だな。
人の弱みに付け込み、取り入っていく……。
八神庵弱み? そんなもの俺には存在しない。
だからこそ俺は奴らに惑わされずにいる。
ロバート・ガルシアよくも悪くも京のことしか
頭にないからこそできることやな。
八神庵あのヨミとかいう男に俺は一度やられた。
俺のことを不要な失敗作とのたまってな。
八神庵奴らの描く理想こそ失敗作だと、
俺の力で教えてやらねばならん。
草薙京へっ、お前ヨミにやられてたのかよ。
そんなんじゃオレとお遊戯もできないぜ?
八神庵当然だ。遊戯で済むようなことではないからな。
矢吹真吾あ、相変わらず八神さんの言ってること
よくわかんないっす……。
草薙京ま、いつもの調子の八神って感じだな。
いいんじゃねえか、信用して。
マキシマ人手はあればあるだけ助かるしな。
来てくれるのならばありがたいぞ。
八神庵勘違いするな。貴様らに感謝されるために
やっているわけではない。
八神庵俺は、奴らとけりをつけるために
貴様らと手を組むまで。慣れ合うつもりはない。
〇×それでも、八神さんが一緒に戦ってくれるのなら
とても心強いです。
〇×一緒に頑張りましょう、八神さん。
八神庵……っ、俺に、触るな。
〇×八神さん?
八神庵…………俺に触れれば、貴様は俺を浄化してしまうだろう。
だからなるべく、貴様とは距離を取りたい。
〇×だ、大丈夫ですよ。なるべく、力はいざというときのために
取っておきますから。
八神庵どちらにせよ、奴らがどんな攻撃を仕掛けてくるかわからん。
俺は貴様らとは別行動を取らせてもらう。
二階堂紅丸お、つまり俺たちがピンチになったら
駆けつけてくれるってことか? 優しいね、八神。
八神庵…………。
矢吹真吾や、八神さんの出番なんてないくらいに
おれたちがナギさんたちをやっつけますから!
八神庵やれるものならな。
矢吹真吾ううう……八神さんの顔、怖い……。
ロバート・ガルシアよーし、頼もしい味方も入ったことやし、
気合入れて行こか! がんばろな、みんな!
八神庵勝手に仲間扱いするな。俺は……。
ロバート・ガルシア細かいことは気にしたらあかんって。
それじゃ、ぼちぼち行こか。
〇×(八神さん、一人で大丈夫かな……。)
八神庵おい、女。
〇×え? あ、は、はい!
八神庵……貴様には、感謝している。
〇×え?
八神庵貴様の語る運命愛とやら、俺に見せてみろ、女。
〇×あ……はい、もちろんです! あと、私の名前は女じゃなくて
〇×ですよ。
八神庵ああ、そうだな。覚えておいてやろう。

14話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×(鍾乳洞での一件の後、私は気を失い、
気がついたらいつもの場所に戻って来ていた。)
二階堂紅丸お目覚めかい、眠り姫。
〇×う……すみません……。えっと、
ナギさんとヨミさんがいなくなって、それから……。
草薙京ひとまず、これからどうするか相談するために
こっちに戻ってきた。
マキシマとはいえ、手掛かりになるものなど
何ひとつ無いから、どうしたものかと難儀しているがな。
〇×そうですか……。
あの、八神さんは……。
草薙京あのあと一人でどっか行っちまったよ。
草薙京×のことが気がかりじゃねえのかって言ったら
貴様らが面倒を見ろ、だとさ。
〇×そうですか……。
〇×(八神さん、どこに行ったんだろう……。
無事だといいんだけど……。)
〇×……! 八神さんからの電話!
は、はい、もしもし!?
〇×……え?
草薙京おい、どうしたんだマネージャー。
〇×……あの、八神さんにこの場所のこと、
教えても大丈夫ですか?
マキシマ構わんが、どうしてだ?
〇×八神さんが、ヨミさんを保護したそうです。
ヨミ…………。
〇×ヨミさん、苦しそう……。
目を覚ましてくれるでしょうか……。
八神庵どうだろうな。奴は死のうとしていた。
すでに手遅れという可能性もある。
〇×どうして、ヨミさんがそんな……。
八神庵ナギと仲間割れでもしたのだろう。
うわ言のようにナギの名を呼んでいた。
草薙京しっかし、なんだってお前、ヨミの野郎を助けたんだ?
八神庵一人で行動しているこいつを捕らえ、
情報を吐き出させようと思ったまで。
八神庵それ以外の理由はない。
マキシマまあ、手掛かりらしい手掛かりも無い中、
ヨミがいるのは助かるな。
〇×で、でも、情報を吐き出させるって……
ヨミさん、簡単に話してくれるでしょうか?
八神庵力ずくでやれば問題なかろう。
マキシマ手段を選んじゃいられないしな。
〇×で、できれば穏便にお願いします。
ヨミさんにだって事情はあるでしょうし……。
八神庵甘いな、女。世界を救うことと、この男一人を救うこと、
どちらが大事だと言うんだ。
八神庵貴様が望むのは世界を救うことなのだろう。
この男一人の犠牲で、貴様の望みは叶うかもしれんのだぞ。
〇×ですが、誰かの犠牲のうちに成り立つ平和が
本当の平和だとは……私は思いません。
八神庵自分の身体を犠牲にしている女が言うことではないな。
〇×…………そう、ですね。
八神庵何かを為すには犠牲はつきものだ。
だが、犠牲を軽くすることはできる。
八神庵軽くしてやることくらいは、してやっても構わん。
貴様のことも、この男のこともな。
八神庵……自身の力でどうにかできることはする。
貴様の言葉に乗ってやった。
〇×八神さん……!
草薙京なーんか、らしくねえな八神。
マネージャーのおかげで変わったか?
八神庵貴様を殺す意志だけは永遠に変わらん。
草薙京なんだ、いつもの八神だな。安心したぜ。
矢吹真吾ちょっ、た、大変っす!
ニュース、ニュース見てください!!
アナウンサー突如として沖縄は禍々しいモヤに包まれ、
現地は混乱に陥っています!
アナウンサー交通機関も運航を停止し、
沖縄へは出ることも入ることもままならず――
アナウンサー我々は取材ヘリで上空から様子を見ていることしか
できません!
草薙京なんだこりゃ。今まで見て来た中で
一番とんでもないもんじゃねえか。
マキシマこれも、ナギによるものなのか……。
八神庵すべてはこの男から聞き出せばいいこと。
どんな情報が出るかはわからんがな。
〇×どんなことであっても、私は受け入れたいと思います。
それが私の運命なら――
〇×それを大事にしたいと思います。
八神庵フン。ならば貴様のその気概、
俺が見届けてやろう。

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4章 Edit

15話 Edit

+  ネタバレ注意
ビリー・カーンしっかし、まさか八神がオレらの仲間になるとはな。
八神庵仲間ではない。ただ行動を共にしているだけだ。
そういうの、仲間って言うんだよ~。
八神庵…………。
〇×(沖縄へ行くことになって、八神さんも
ついてきてくれることになって……。)
〇×(こうしてみなさんと一緒に八神さんがいるって
なんだか不思議な光景だな。)
ビリー・カーン言っておくけどよ八神。昔のKOFでのこと、
忘れたわけじゃねェからな。
八神庵昔……?
ビリー・カーンとぼけんなよ。KOFが終わったあと、
オレらをボコボコにしたこと……。
八神庵覚えていないな。
ビリー・カーンてめえっ!
〇×あ、あのっ! む、昔のKOFって、
いったい何があったんですか?
ビリー・カーン……あぁ、オレは前に、
コイツとチーム組んでKOFに出たことがあったんだよ。
ビリー・カーンもう一人、極限流を目の敵にしている忍者も入れてな。
〇×に、忍者……。
アンディ・ボガード僕が師事した不知火流も忍術の流派だからね。
現代にも忍術は存在しているんだよ。
リョウ・サカザキさすが忍者と言ったところか。神出鬼没で、
唐突に目の前に現れることが多い。
ロバート・ガルシア今も実はこのジェット機に乗っとったりしてな!
二階堂紅丸いやいや、二階堂家のセキュリティは完璧さ。
不法侵入は見過ごさないよ。
ビリー・カーンで、まあチームを組んで出場したのはいいが、
大会が終わったあとにこいつ、オレらをボコボコにしたんだ。
〇×八神さん、どうしてそんなこと……。
八神庵俺の目的は京を殺すこと。
それに奴らが邪魔だっただけだ。
ビリー・カーンそんな理由でボコられて、
はいそうですかって納得できるかよ。
マキシマまあ、なんだ。その辺りの決着は、
すべてが終わってからすればいい。
マキシマこのままじゃ全員がボコボコどころでは
済まないことになってしまうからな。
ビリー・カーンそうだな。仲間割れしてる場合じゃねェか。
八神庵だから仲間ではないと言っている。
ビリー・カーン八神くんは最高の仲間だぜ、ってな。ははは!
八神庵………………。
ビリー・カーンチッ、挑発にも乗らねェか。
なんかほんと、大人しくなったな、八神。
〇×八神さんは、確かにおっかないところも
あるかもしれませんが……。
〇×でも、優しいところもありますよ。
ですよね、八神さん。
八神庵……フン。
草薙京お、照れてんのか八神。
八神庵照れてなどいない。
照れてる~。八神さんにもかわいいところあるんだね♪
八神庵それ以上喋れば子どもであろうと容赦はせんぞ。
わあっ、こわ~い!
×お姉ちゃん、助けて~!
八神庵くだらん児戯だ……。
テリー・ボガードまあ、なんにせよこの先沖縄で
一緒に戦っていくことには変わりない。
テリー・ボガードだからさ、よろしく頼むぜ、八神。
ジョー・東期待してるからな!
八神庵当然だ。
〇×(八神さん、なんだかんだでみなさんの中に
溶け込んでいるみたい。)
〇×(やっぱり、KOFで何度も顔を合わせている仲だし、
格闘家同士だからこそわかることとかあるんだろうな。)
矢吹真吾みんなで力を合わせて頑張りましょー!
おーっ!

16話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×はぁ……はぁ……ええと、次に浄化する人は……。
草薙京マネージャー。働きすぎて息切れしてるぞ。
少し休んだほうがいいんじゃねえか。
暴徒はみんな気を失ってるみたいだし、
すぐには起きないと思うから休もう、お姉ちゃん。
〇×ごめんなさい……それじゃあ、少しだけ……。
八神庵……献身的なものだな。
〇×少しでも多くの人を助けたいですから。
〇×八神さんは、大丈夫ですか?
八神庵…………。
草薙京このあたり、やっぱナギの力が集中してるせいか
モヤがすげえ濃いよな。
草薙京八神お前、また暴走するんじゃねえのか。
ナギの祝福とやらで暴走しやすくなってんだろ、お前。
八神庵……今のところは抑えている。
だが、これが持続する保証はできん。
草薙京そのままこらえてくれよ。
オレだって体力の無駄遣いはしたくねえしな。
ヨミ……八神庵。まだ、祝福の力が残っているのか。
八神庵そのようだ。
まったく、厄介ごとを寄越してくれたものだな。
ヨミナギ様のおそばにいた間であれば、
貴様のその祝福を解くこともできたが……。
ヨミ今の俺はただの人間。そのような力は持ち合わせていない。
八神庵持っていたらこの場で解いたとでも言うのか。
ヨミ…………。
八神庵仮に貴様に今、解く力があったとしても不要だ。
この力はナギを倒すことでナギに返す。
八神庵俺を失敗作呼ばわりしたことを後悔させてやろう。
ヨミ……あのとき、貴様を殺さずに捨て置いたこと。
その選択がよいものであったかどうか……。
ヨミ見極めさせてもらうぞ、八神庵。
八神庵……勝手にしろ。

17話 Edit

+  ネタバレ注意
椎拳崇……だいぶモヤが濃うなってきたな。
ちょい待ち、ここで給油しとくわ。
椎拳崇10分休憩な。時間厳守やでえ!
〇×街中モヤが濃くて、息が詰まりますね……。
八神庵ああ、そうだな。…………。
〇×あ、向こうに雑貨屋さんがありますよ。
八神さん、ちょっと気分転換に行ってみませんか?
八神庵……ああ。
〇×わあ、かわいいアクセサリーがたくさん。
店員いらっしゃいませ、ごゆっくりご覧ください。
八神庵こんな状況でも店を開けているとは、大した商魂だな。
〇×こんなときだからこそ、かもしれません。
かわいい雑貨を見るとやっぱり嬉しくなりますし。
〇×(最近は忙しくて、あんまりゆっくり
自分の買い物することもなかったからな……。)
八神庵そういうものか。……ん?
〇×八神さん、何か気になるものがありましたか?
八神庵いや、ここは犬猫の首輪も売っているのだな、と
思っただけだ。
〇×あ、本当だ。
これとか、つーちゃんに似合いそうですね。
八神庵……あいつは、今頃どうしているだろうな。
〇×……きっと、八神さんの帰りを待ってると思います。
だって、つーちゃん八神さんのことが大好きですから。
〇×つーちゃんは今もライブハウスに?
八神庵ああ。観客にもかわいがられているらしい。
〇×ふふっ、よかった。そう聞いて安心しました。
〇×……よかったらこれ、お土産に買いましょうか。
渋谷に帰ったら、つーちゃんに付けてあげましょう。
八神庵……そうだな。
〇×じゃあ、買ってきますね。
八神庵おい、自分の欲しいものはないのか。
〇×できればいろいろと見て回りたいですが、
そんな余裕もないですし……。
〇×世界が元に戻ったら、
ゆっくり自分の買い物をしたいと思います。
八神庵…………そうか。
椎拳崇よし、みんなおるな。
そんじゃそろそろ出発し――
暴徒Aウウウウ……ッ!!
椎拳崇おわっ!? て、敵が来おったで!?
草薙京チッ、しょうがねえ。とっとと片づけるぞ。
八神庵……ああ。
草薙京ボディがお留守だぜ!
八神庵うおおおっ!
暴徒Aグ、グオオオオッ!!
暴徒Bガアアアッ!!
矢吹真吾ぜ、全然怯んでないっすよ!?
八神庵……おそらく、ナギの影響力が強く出ているのだろう。
だがそんなこと関係な……――っ!
〇×八神さん!
八神庵う、グ……ッ!! グウウ……ッ……。
草薙京チッ、こいつまでナギの影響受けてやがんのかよ!
こらえろっつっただろ!
八神庵お、れ……ハ……
う、ぐう……!
〇×(八神さん、必死に暴走をこらえてる……!
なんとか助けないと……っ。)
暴徒Aウオオオオッ!
テリー・ボガードパワーチャージ!
テリー・ボガード暴徒たちは俺らに任せてくれ!
八神のことは京と×に任せた!
草薙京へっ、結局こいつの面倒見る羽目になるんだな。
来いよ八神!
八神庵う、ウ……き、京……!
〇×八神さん! 正気に戻ってください!
お願いですから……!
八神庵ヤメロ、女……ッ!!
〇×…………っ!
〇×(手を振り払われた……けど、
八神さんの目は……いつもの八神さんだ……。)
暴徒Cウオオオオオッ!
草薙京――! こっちからも暴徒が……!
マネージャー、逃げろ!
八神庵……っ、どうしたあっ!
暴徒Cグアッ……!
草薙京八神、お前……。
八神庵……フン、正気に戻れだと? 俺は元より正気だ。
ナギの力などに惑わされはしない。
草薙京よく言うぜ。結構ギリギリだったんじゃねえのか?
八神庵さあな。それより、さっさと片を付けるぞ。
草薙京言われなくても。
暴徒Cグア……ッ!
八神庵遊びは終わりだ! 泣け! 叫べ!
そして、死ね!

18話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×いよいよ、決戦のときですね、八神さん。
八神庵……ああ。……震えているようだが。
〇×こ、これは、その……武者震いというやつです。
八神庵フ……強がりを。
〇×(……あ、今の八神さんの笑顔、
なんだかちょっと優しそうに見えた。)
〇×ふふっ。
八神庵なんだ、何がおかしい。
〇×いえ。……頑張りましょうね、八神さん。
八神庵……ああ。このようにナギの力が強い中でも、
俺は正気を保てている。
八神庵このまま、ナギに祝福の力とやらを突き返そう。
〇×できます、絶対に。
八神庵それと……貴様に渡すものがある。
〇×私に?
八神庵目を閉じていろ。
〇×(なんだろう……。)
八神庵そのままじっとしているんだ。
動くんじゃないぞ。
〇×(……八神さんがすぐそばにいる気がする。
首のあたりに、何か冷たいものが……。)
〇×(八神さんの心臓の音が聞こえる……。)
八神庵もういいぞ、目を開けろ。
〇×……八神さん、これは……。
〇×(ネックレス……?)
八神庵雑貨屋で、欲しいものがないのかと聞いたら、
ゆっくり見て回る余裕がないと言っていただろう。
八神庵だから代わりに俺が、
貴様に合いそうなものを見繕ってやった。
八神庵不満ならばそのあたりにでも捨てておけ。
〇×不満だなんて!
とっても嬉しいです、ありがとうございます。
〇×(ネックレスが光ってきれい……。)
〇×……ふふっ、これをつけてると、
力がわいてくるような気がします。
八神庵その力で、ナギを倒すぞ。
…………×。
〇×はい。………………あれ?
〇×八神さん、今、私の名前……。
八神庵…………。
〇×ふふっ。やっと私の名前、呼んでくれましたね。
八神庵……行くぞ、×。
〇×はいっ、八神さん!

19話 Edit

+  ネタバレ注意
〇×(すべて、終わった。世界は元通りになって、
たくさんの人がKOFを見て楽しんでいる。)
〇×八神さん、本当にKOFには出場しないんですか?
八神庵ああ。チームメンバーもいないしな。
〇×そうですか……。八神さんがKOFに出るところ、
ちょっと見てみたかったです。
八神庵いずれ機会はあるだろう。
〇×そうですね。道場での仕事は続けますし、
次の大会では、ぜひお会いしたいです。
〇×よかったら道場にも遊びに来てください。
八神庵そこには京もいるんだな。
…………。
〇×あ、あの、殺すとかそういうのはやめてくださいね……?
八神庵善処しよう。
〇×(善処…………。)
ナギやあ、ヒメ。それに庵。二人とも楽しそうだね。
ナギ特に庵。君の表情、
ずいぶん晴れやかになったように見えるよ。
ナギ僕が来るたびに睨みつけて歓迎してくれていたのが
嘘のようだね。
八神庵…………何の用だ。
ナギ君に祝福の力を授け、苦しめたこと。
それを謝ろうかと思って。
ナギ君の執念には驚かされたよ。京への執着心……
それがあれば、君は長生きできそうだ。
八神庵それは謝罪の言葉と言えるのか?
ナギあ、うーん……どうなんだろう?
ヒメはどう思う?
〇×え、えーっと……謝るときはやっぱり、
ちゃんとごめんなさいって言ったほうがいいと思います。
ナギじゃあ、ごめんなさい、庵。
八神庵……まるで謝罪を受けている気がしない。
いやそもそも謝罪などいらん。
ナギ君がKOFに出てくれないのが残念だよ。
君がいたら、もっと早く世界は回復するのに。
八神庵つまり俺がいなくても問題はないということだろう。
ならば知ったことではない。
ナギそうか。……じゃあ、僕はここで失礼するよ。
KOF主催として、やることがたくさんあるからね。
ナギそれじゃあ、これからもよろしくね。
八神庵……まったく。得体の知れない輩だ。
八神庵だが、以前に比べて奴もまた、
晴れやかな顔になったと思う。
〇×ええ、そうですね。神様としての使命とか、
そういうのから解放されたというか……。
八神庵……神は死んだ。
〇×あ、それもツァラトゥストラに関係する
言葉でしたよね。
八神庵ああ。……まあ、厳密にはいろいろと
意味があるようだが……。
八神庵今あの場にいるのは、
ナギという一人の男だ。
八神庵そして俺も、八神庵という一人の男として、
×という一人の女のことを見てやろう。
〇×私も……八神さんのこと、ずっと見てます。
八神庵…………ああ。
にゃーん!
〇×え、つーちゃん!?

エピローグ Edit

+  ネタバレ注意
にゃあ~! ゴロゴロゴロ……。
〇×どうしてつーちゃんがここに……。
ボーカルああもう、足が速いんだから……
って、八神! それに八神の彼女さん!
八神庵貴様、何故ここにいる。
ボーカルあれ、彼女ってところ否定しないのか?
八神庵…………。
ボーカルまあいいや。KOFの主催者からさ、
大会を盛り上げるために来てくれって依頼があったんだ。
ボーカル八神がうちのバンドにいるって、
主催の人よく知ってたよなあ。
八神庵…………。
ナギ…………ふふっ。
八神庵それで、何故猫までいるんだ。
ボーカルそれが、猫に長旅はきついだろうからペットホテルに
預けようとしたんだけどさ。
ボーカルペットホテル嫌がって、もうにゃあにゃあ泣いてさ。
仕方なく連れて来たんだ。
ゴロゴロゴロ……。
ボーカルきっと八神に会いたかったんだろうな。
八神庵……フン。
〇×ふふっよかったねつーちゃん。
あ、そうだ。新しい首輪買ったの。
〇×ホテルにあるから、あとでつけてあげるね。
にゃ!
ボーカルと、いうわけでバンドやるぞ八神!
主催者はお前もご指名だからな。
八神庵…………仕方あるまい。だが、一つだけ
俺の言うことを聞いてもらうぞ。
ボーカル八神の頼みならなんでも!
八神庵……本当は東京に戻ってから、あらためて貴様を
招待し、聴かせる予定だったが、予定が変わった。
八神庵×。このライブ、必ず来い。
〇×え……? は、はい!
女性Aいおりんの久々のライブ楽しみ~!
東京からわざわざ来てよかった~!
女性Bこの間は調子悪かったけど、
今日は大丈夫かな?
女性A大丈夫だよ、だっていおりんだもん!
〇×(ふふっ、八神さん、ファンの人たちに
愛されてるんだな。)
〇×(必ず来いって言われたけど、何があるんだろう……。)
八神庵……待たせたな。
ボーカルみんな、準備はいいか!?
八神庵…………。
〇×(八神さん、懸命にベースを弾いてる。
初めて見た時……それ以上に、かっこいい……。)
女性Aいおりーん! さいこ~~!!
女性Bいつものいおりんらしい……ううん、
これまでのいおりんから更に格好よくなった!
ボーカルみんな、盛り上がってるか~!?
ボーカル今日はなんと、八神が作った新曲を披露するぜ!
女性A新曲!? マジ!?
ボーカルけどその前に、八神から大事な話があるらしい。
みんな、聞いてくれ!
八神庵…………。
〇×(八神さん……今、こっち見た……?)
八神庵……ここしばらく、いろいろなことがあった。
幾度となく困難が待ち受けていた。
八神庵だがそんな中でも、懲りずに前を向き、
行動を起こす奴らがいた。
八神庵その中でも一層往生際が悪く、諦めも悪い女がいた。
だがその女の力あって、俺は今、ここに立っている。
八神庵その女の気持ちに少しでも報いたい。
……少しでも、この感謝を伝えたい。
八神庵……俺に出来ることは少ない。
だから、その女を想って、曲を作った。聞いてほしい。
♪~
女性A……。
……今までと、全然違う……。
女性Bいおりんが選んだんだもん。素敵な女性なんだろうね。
だったら応援するしかないよね……。
八神庵……。
〇×(八神さん、私を見てくれている……。)
〇×(優しいメロディ……、なんだか私まで涙が……。)
八神庵……待たせたな。
〇×八神さん、お疲れ様です。
今日のライブ、とっても素敵でした。
にゃーん!
〇×ふふっ、つーちゃんも
ライブ楽しかったって言ってます。
八神庵猫の言葉などわかるはずがないだろう。
〇×でも、そんな気がするんです。本当に、
最高のライブでしたから……。
〇×特に八神さんが作ったという曲……。
優しいメロディで、ずっと聴いていたいくらいでした。
八神庵これからいくらでも聴かせてやる。
あれは、貴様に捧げる曲だからな。
〇×八神さん……。ありがとうございます。
〇×あの曲……暖かくて、綺麗で、
なんだかとても幸せな気分になりました……。
八神庵ふっ、幸せと言いながら泣くとは。
ライブの時もそうだったな。
〇×み、見えていたんですか?
八神庵ああ。
ずっと、な。
八神庵……だが、貴様に涙は似合わん。
笑っていろ。俺の曲を聴いて、笑え。
〇×……曲だけではありません。八神さんの声、表情、
いろんなものを見て、聞いて、笑います。
八神庵……ふっ。口が達者だな。
八神庵まさか、俺がこんなに
他人へ情を抱くことになろうとはな。
八神庵……×。
〇×……なんですか?
八神庵……触れてもいいか?
〇×……はい。

 
SSスチル_八神庵.jpg
 

〇×(八神さんの手が、私を絡めとる。
まるで、もう逃がさない、というように。)
八神庵ふっ。貴様の手は小さいな。
〇×八神さんの手が、大きいんです……。
八神庵そんなことはない。
……小さいだけではなく、華奢ですぐに折れてしまいそうだ。
八神庵こんな手で、戦い続けていたのか。
〇×八神さん……。
八神庵戦うこと、京を殺すこと。それだけが俺の生きがいで、
それ以外には不要だと思っていた。
八神庵だが……それ以外にも必要なものができた。
これもまた、運命というものか。
八神庵貴様と運命を共にし、受け入れること。
……悪くない。
〇×……これからも、一緒にいましょうね、八神さん。
八神庵ああ。
にゃあん!
〇×あ、もちろんつーちゃんも
一緒だよ。
八神庵……。
×。
〇×はい。
八神庵……ネックレス、付けてくれているんだな。
〇×はい……毎日つけています。
八神庵……よく似合っている。
〇×ありがとうございます……。
八神庵次の新曲も考えている。
これも貴様に向けた曲だ。
八神庵貴様といると、曲のアイディアが出てくる。
不思議なものだ。
〇×聴かせてください。八神さんの曲、もっと、たくさん。
八神庵……ああ。もちろんだ、×。

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