何故かいつも帰って来るのはわかってしまう。決して待ち侘びていたわけじゃない。そう、悪い予感の方がよく当たる。そんなのカンジ。
合鍵を使って上がり込んで来て悪びれもしない。それどころかどうして世界で一番傷ついた子供の様な顔が出来るんだろう?テーブルに並べた料理も殆どお子様向け見たいなものだし、一体幾つのつもり?そう、お互い。
ーお前だけがわかってくれる。
ー私だけがわかってあげられる。
もう原形すら留めていない、もはや呪縛でしかない、いやそれすらでもない何か了解だったらしいものが蟠っている部屋。
本当にウンザリする、本当に。なのにどうして言えないのだろう?言ってしまえばいいのに。言えないのならとっとと引っ越すなり、鍵を変えるなりすればいいのに。
本当にウンザリする、自分に一番。アイツが欲しいのは都合のいい母親と帰れる場所。ただそれだけ。そんなのとっくにわかりきっているのに。
真夜中、彼女はお気に入りの万年筆で日記にだけ打ち明ける。だんだん文字が太くなるのに気づいてため息をつく。ふと、背にした彼の寝息を吹き消せるものならと思った。