頭の中を小人の国に例えたら、離れ小島の地下迷宮に棲む大きな蟲、動物、いや簡単に怪物と呼べばいいんだが、そんな得体のしれないやつがアイディアなのだ。それを地下から明るみに引き出さねばならない。意識の灯りのあたる所に晒すことが出来たら、全身を震わせて「ひらめいたぞ」と叫ぼう。
「それで思いついたんですか?」
従順なふりをして、文句ばかりの子分がせっつく。
「まだだ」
ワシはぶっきらぼうに返す。そう簡単にこの土蔵の檻から出られるわけない。しかし脱出し、襲撃計画のことを知らせないと仲間は全滅だ。
「兄貴」
子分がまた縋るような目を向ける。しかしこいつはワシの背後を見ていた。振り返ると、猫ほどのでかさのドブ鼠がヌッと居座ってる。この土蔵の主か。のけぞったワシと子分は、反射的に逃げようとし同時に壁に激突した。土壁がボコッと崩れ、庭の植え込みが覗けた。
「何だよ、鉄格子なんかに気を取られて、こんなもろい造りだったとは」
「兄貴、急ぎやしょう」
子分はワシを引き離し、ぐんぐんと距離を広げる。ワシは何だか張りつめていた気がフツと途切れてテク、テク、とゆっくり子分の後を追った。
逃げ去るワシらを、巨大ドブ鼠は壁の穴からじっと見送っていた。