上流からまた草履が流れてきた。弟がベイトリールを巧みに操ってスピナーで引っ掛けて回収する。上流に遊泳場があって、子供が油断して流してしまうのだ。色とりどりのビニール靴。ミュール。浮き輪。弟はきりがないなーという顔になってきた。魚籠の中は空。足元にはカラフルな漂着物。高価そうな靴もあった。
「エスパドリューだな」
「兄ちゃんは物知りだな」
スニーカーも流れてきた。
「靴屋が開けそうだな」
ぼくが軽口をたたくと、弟が面白がってそのスニーカーもルアーで引っ掛けて岸に戻した。
「でも全部片方しかねえよ」
「そうな。でも水木しげるの妖怪図鑑に出てきた、一本足の妖怪には売れるかもよ」
「はは、あの妖怪、何てったっけな?」
「何か良い名前が付いてたけど、ぱっと思い出せないな」
妖怪の名を無心に検証してると、まだ竿にぶら下がってるスニーカーが「カカカカッ」と高笑いした。二人びっくりしてると、スニーカーの中からビョッと見事な大きさの鮎が跳ねた。