会えなくなるね、と差し出された少年の右手。少女はその手を握りしめると、ぎゅんと全速力で走り始めた。引きずられて少年も走り出し、二人に笑いがこみ上げて、涙目で大笑いしながら走り続けて、やがて大川の橋の上に来たかと思うと、欄干を乗り越えて川へドブン。水の中で抱き合い、泣きながら微笑みあって、流れていった先は大きな淵。少年は少女を岸にひきあげてぎゅっと抱きしめた。
ヒトの国で待ってるよ。
少女は怒ったような顔で少年をふりほどき、岸に生えていたシダの葉を一枚とると、ふんっと無造作に手渡した。少年はそれを大事に受け取り、その葉で自分の頭をなでると、しゅうぅと人間の男に化けた。少女は、男をもう一度ぎゅっと抱きしめると、もうふりかえらず淵へ飛び込んでいった。真新しいスーツの男はフウと息を吐くと、国道へ続く細い道をガシガシと上っていった。