と、吐き出したスイカの種は、上手く飛ばずにボクの口のまわりにベットリとついてしまった。それを見たじいちゃんはクックと肩を震わせて「まだまだやな」と言った。そして持っていたビール缶を、縁側から1mくらい離して庭に置くと、じいちゃんはスイカを一切れ手にとり、シャブッとかぶりついた。「見ときや」じいちゃんの口からぷっぷっぷっとスイカの種が飛び出し、ビール缶にカツカツと当った。「じいちゃん、すげえ」「はは、ひとつハズしたわ」じいちゃんは笑って残りのスイカをシャブシャブッと食べてしまった。蝉の声。どこかで鳴る風鈴。蚊取り線香の匂い。これでもかというほど夏だった。
あれから50年。じいちゃんはもうこの世にいないどころか、縁側のあったあの家も今はもう誰も住んでいない。夏の気温は年々上昇を続け、いまや人々は閉め切った部屋でエアコンをかけて閉じこもっている。じいじになったボクは、スイカの種を飛ばす動画を孫娘に送ってみたけど、ママから「子供に変なことを教えないで」とメールが来た。ちぇ、なんだよ。一人では食べきれないスイカを抱えモッサリと齧っては、わざと口のまわりに種がつくように吐き出している。