月の明るい七夕の夜のことだ。
建ち並ぶ家々にはまばらに笹が飾られていて、そのうちのひとつに掛けられた短冊に、「まほうがつかえるようになりますように。」と書いてある。玄関の外に立てかけられたそれを見た父親が仕事から帰ってくると団欒がはじまった。
「なんだ、願い事さっき見たけど、サキは魔法が使えるようになりたいのか。」
「そうなのよ、あたしも言ったんだけど。」
「なんでまた魔法なの。」
「さあ?あたしに聞かないでよ。」
それを聞いていた子どもは
「だって、魔法が使えたらなんでもできるでしょ?」
と、ふんぞり返って答えた。
「ははあなるほど。」
「あ、でもね、家族が元気でいられますようにってやつも書いてくれたのよ。」
「そっかー、そりゃあありがたいね。あ、ご飯?」
そうやって続く会話を屋根の上で一休みして聞いていた独り言が癖のくたびれたおばさんは、
「そんなに何だってできればあたしも苦労はしないんだけどねえ…。」
とゆっくり腰を上げると、右手に持っていたホウキをまたいでまた「つい」と夜空に飛んでいった。