彼女は、僕の部屋から出て、それきり戻ってこなかった。
僕は泣かなかった。
代わりに象が残った。
象はすでに大きくて、いつの間にか部屋に住みついていた。彼女がいなくなって部屋は広く自由になったはずなのに、象がいるせいか、快適でない。狭いので、僕は象のお腹の下で眠るしかなかったが、彼女のことばかり考えてしまう。もう、いなくなったのに。
やっぱり、象のせいで気分が滅入ってしまうのに違いない。放っておいてもいなくなる気配はなく、何日かして、僕はようやく象を捨てることにしたが、大きすぎて扉から外に出せなくて、仕方がないので部屋ごと捨ててきてしまった。
象には、彼女の名前がついていた。
少し涙が出た。
部屋にはそれきり戻らない。
僕の後ろで、象の欠片がひょこひょこと付いてくるのを、今は見ないふりをした。