「子供の時分はお前ともよく遊びに来たもんじゃが」
と、体を屈め
「最近はあんまりじゃのう」
手に取っては石を川原に戻す。
幼馴染みのおこうが「そうでございますね」と、二歩ほど下がった場所にいる。
平吉は、それだけで嬉しい。
天気が良いので水切りをしようと外へ出たらおこうと鉢合わせ、ふたりでここに来たのはこれで九十と九度目のように思う。
おこうは、覚えておらんだろうなあ。
今日のおこうはいつもと調子が違う。しかし平吉は気のまわる方でない。いい石も見つからずどうしたものか、なぜかおこうが平吉の父の健在を喜びなぜかしどろもどろでふたりの不仲を「だって。ほら。ね」と心配し幼少の平吉が家出をしたことに話が及んで、平吉は「あ。」と声を出した。
いいのがあった。
いやそれよりもあのとき平吉を迎えに来たのはたしかに俺より幼いおこうであった。
あやうく約束を破るところだったが、
「おこう、突然じゃが」
? 平吉が石をすいっと投げると。水面で八回跳ねた。
「おれと夫婦にならんか」
「子供の時分はお前ともよく遊びに来たもんじゃが」
玄孫に石を見立ててやりながら平吉が言う。
「今は見ているくらいが丁度いいなあ」
白寿を越えた妻がとなりで返事をする。