人に言われるまで、気にしたことがなかった。
私の生家は、玄関に入るとすぐにまた扉があって、居間に続いている。となれば当然、出かけるなり帰ってくるなり居間を通らなければならない構造で、なんにせよ家人とはよくよく顔を合わす。ほかに四畳半の和室と台所、戸を隔てた狭い廊下の側には風呂場と便所、螺旋になりきれない階段がある。
さて二階はというと、各々の寝室と物置、それから便所がある。一室だけにベランダがあり、天気のよい日は洗濯物が干されることとなる。
十何年と暮らすうち床や天井の色が薄らと汚れていったり、一番下の子が猫を拾ってきて、そいつが爪を研ぐようで、どちらの階もそちこちの壁角が毛羽立ったりもしている。
私に説明できるのはそれくらいだが、あらためて観察すると、三階建てのようにも、たしかに見える。
玄関に入れば、扉の向こうで、テレビの音声が流れている。
居間に入れば、おかえりなさいと誰も屈託がない。
二階を探れば、と考えたが何も見つからない。
階下から、お茶を淹れるよと声を掛けられ、呑むと答える。