そんな事があったんだってさ。と隣りのテーブルで誰かが誰かに話していたのだと、あの人が呟くように話したことがあったっけ。グラスの水はぬるい。知らない人たちが、知ったこっちゃない事を喋っている。囁いている。わめいている。知らない誰かや誰かにまぎれて、私は思い出している。指先でふれるグラスは、やはりぬるい。そんな事があったんだけど。テーブルを挟んで話しても、あなたは気のない相槌を打つばかり。いつかのテーブルの私みたい。あなたもいつか、ぬるいグラスを見つめるだろうか。そんな事があったんだってさ、と誰かがいう。いつか。