世界中がぼくのためだけに泣けばいい。
てなことができるんじゃないかと思ったのは、ぼくにのこったわずかな本能のようなものかもしれない。
何の悪いことをしたのか知らんけども兵隊につかまって死刑を宣告されたぼくは、ともだちになったばかりの女の子が見つめるなかで体じゅうを切られることが決まっていた。
火あぶりじゃなくてよかった、となぜかほっとした。
焼かれるのは、いやな気がした。
逃げられないなら切られるのがいい。
わっはっは。と、ぼくは笑った。
笑うな。と、執行人がいう。
この世を歩きはじめてから数日でこの有り様だもので、ぼくはもうなんか人間というものに落胆していた。
こんなもんか。
わっはっは。
なんで処刑を公開するのか。
わっはっはっは。
意味わからん。
はっは。
どうして人間になりたいなどと思ったのだったか。
笑うな。と、執行人がいう。
さあさ、世紀の見世物だ。死刑の人の姿が消えるよ。
格子状の刃が、すとんとおちる。
ぼくの成分が風にはこばれ、みんなを泣かせる。悲しまなくてもいい。
ただせめてあの子が泣くのが、別の理由ならいいと思う。
たちまち魔法がとけて、切りきざまれたぼくの小さなかたまりだけがのこるはずだ。