まつじ/金木犀 のバックアップ(No.1)


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「女中さん、女中さん」

 と私は家の中に向かって不躾に叫んだ。

 緩やかな曲線を描き駅へ続く通りに面した小さな屋敷が私の生家だ。日当たりは良く、涼しくなってきた縁側に腰掛けて、もう一度

「女中さん」

 と声を掛けると間もなく、奥から

「はい、はあい」

元気の良い返事がある。はたはたと足音を立てて来た彼女

「どうしました坊ちゃん」尋ねてからすぐに

「あら、いい薫り」

と鼻を動かした。

「うん、金木犀だ」

私は彼女を見ていた顔を庭になおして言うと、本当は一番に気付いていたのだろうなと考えながら、暫く二人でそのままでいた。

十五で彼女がこの家にやって来て、もう七年になる。姉のようで慕ってもいたが、一昨年亡くなった私の母に家を頼まれてからは、自分の事を「女中さん」と呼ばせるようになった。以来、父と私の世話をよく見てくれている。

風が流れたのか、彼女の匂いがした。

忙しい父は気付いているかな、と言うと、どうでしょうね、と彼女は笑って、小さな枝を折ると父の部屋に飾った。

翌日台所に立つ彼女から微かに金木犀が薫ったが

「女中さん、女中さん」

と朝の献立を尋ねる以外、私には出来なかった。

ジャンル Edit

仕事におい金木犀?彼女わたし

カテゴリ Edit

超短編/カ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第32回自由題 / 参加作

執筆年 Edit

2005年?

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