胡乱舎猫支店/百年と八日目の蝉
Last-modified: Wed, 24 Jun 2020 23:38:45 JST (1400d)
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紅い花が咲いた。9日前の雪の日、街外れの古木に。
この辺りが新興住宅地と呼ばれていた頃から住んでいるが花をつけるのを一度も見たことが無かった。
白に紅。絵になる筈なのにどこか禍々しくて撮った写真をネットに上げる時は「閲覧注意」と書いてしまった。
花は翌日散ったと言うより落ちた、ぼとりと丸ごと。そして地面で花弁を撒き散らした。周りを埋め尽くした紅の下からは夥しい数の蝉が這い出て来た。既に成虫の姿で低く啼きながらぞろぞろと連なって樹へ取り付いて行った。まるで亡者が怨み言を呟きながら群をなしているかの様に。もちろん動画を撮ったがこれを公開していいものかと思案した挙句、同じ注釈付きで上げた。
それからずっと蝉は啼いている。桜も未だだというのに耳だけならまるで盛夏の様だ。ネットではこれは百年蝉ではないかと一部でささやかに盛り上がっていた。百年土の中にいるとか、必ず拠り所の樹があるとか、殆どは雄とか、その寿命が尽きる時には…とか。
だからなのか今日は野次馬…いやお仲間が多い。場所を特定したらしい見知らぬ顔もちらほら見える。
突然蝉時雨が止んだ。
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初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第157回競作「百年と八日目の蝉」/参加作
執筆年
2017年?
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