空虹桜/たおやかな捻れ
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家になんていれないし、そもそもわたしの「ホーム」はここだから、わたしは宮益坂のマンボーを這い出て、渋谷駅へと下る。
この世に溢れる正論がどれだけ正論でも、わたしの生きるここでは誤っている。血のつながった人間たち(まだ生きていれば)とは一緒にいられないし、であれば、わたしはわたしを受け入れてくれたセンター街や道玄坂に義を返すのが筋だ。人がまばらなオープンエアー。だから、わたしは今できることをする。
普段なら気にも止めないゴミを拾い、鳩に餌をやり、マックを食べて、BluetoothでiPhoneとつないだスピーカーから流れるフューチャーポップで、おんなじような男女と踊る。繰り返し。日々を。日銭は道玄坂で手に入れる。
拡散も感染も関係ない。わたしには。自己責任や若さの代償ではない。今死ぬか、後で死ぬかの差。何時死んでもいいように生きてきたら、何処で終わってもかまわない。喜び人がいても、悲しむ人はいない。肉体をむざむざと朽ちらせたら、渋谷には怒られるかもしれないけど。
「自分たちがテロリストだと思ったことはないですか?」
マスクの下は美人だったはずのアナウンサーがアホみたいな質問を口にして、間抜け面なわたしにマイクを向ける。今さらわたしに新しい名前を付けないでくれ。ちゃんとわたしを生きて、ちゃんとわたしで死にたい。
常に第三者なマンボーに帰って眠る。
※初稿につき、最終稿はこちら。
ジャンル
街、リアル、渋谷?、生命、孤独、音楽、踊る?、わたし、COVID-19
カテゴリ
この話が含まれたまとめ
評価/感想
初出/概要
書き下ろし
執筆年
2020年?