よもぎ/3丁目の女
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午後3時過ぎ。パートの仕事を終えた後、私は町内会の会費を集めていた。渋々ひき受けた町内会役員。クタクタの体をひきずって家々を回れば、会費を渋る人もいて疲れが増すばかり。なんで私が怒鳴られたり謝ったりしなきゃいけないのよ。
帰宅するとどっと疲労感に襲われて洗濯物も買い物も夕飯ももうどうでもよくなってしまった。
ひとりベランダに出る。雨あがりの夕焼けを眺める。と、道路の向こう。子供達がぽかんと空を見上げていた。振り返ると、東の空にそれはそれは大きな、虹!
鮮やかに半円を描く七色は、2丁目のホームセンターから4丁目の公園あたりへ架かっているように見える。
誰も彼も足をとめ、空を見上げる。手押し車のおばあさん。犬の散歩の女性。隣の子供は家に駆け込むなり母親の手をひいて外へ飛び出してきた。二人もまた手をつないで空を見上げる。そして私も。
虹はやがてゆっくりと夕焼け色の帯になり消え始め・・・。
すると「ただいま!」と子供の声がして。あらやだ、もう帰ってきたわ、おかえり!ランドセル片付けなさい、手を洗いなさい、夕飯なんにしよう、お肉あったかな、野菜は・・・ああ、カレーにしよう、え?虹?おかあさんも見た見た!きれいだったわね!
ジャンル
日常、夕方、ご飯、カレー、虹、空、数字、子ども、母、彼、わたし
カテゴリ
この話が含まれたまとめ
評価/感想
初出/概要
超短篇・500文字の心臓 / 第95回競作「3丁目の女」 / 参加作
執筆年
2010年?