よもぎ/結晶
Last-modified: Thu, 04 Mar 2021 23:43:17 JST (1484d)
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「一刻の猶予もならぬ。封印は溶けてしまったのじゃ」
八百万の神が集まった。
「毒羽虫は飛び立ってしまった。もはや封じることはかなわぬ」
「私が洗い流してしまおう」と雨の神が言った。
「私が雨で射て毒羽虫を地に埋めてしまおう」
「地に埋めれば毒の木が生える」と地の神が言った。
「毒の木には毒の実がなり、それを喰らえば喰らった者もまた毒に冒される」
八百万の神は沈黙した。そこへ
「私が毒を喰らおう」と声がした。
「私がすべての毒を喰らって共に消えよう」と小さな花の神が言った。
「やむをえぬ」「やむをえぬ」
八百万の神が呪を唱える。小さな花の神は手の平を椀の形に捧げ持った。雨の神が毒羽虫を銀の矢で打つ。すべての毒羽虫が小さな花の神の手の平へ吸い込まれていく。
やがて銀の雨が止み、呪を唱える声が止んだ。手の平には燐光ゆらめく青い石がひとつ。小さな花の神はひと息にそれを飲み込んだ。一瞬苦痛に顔を歪め、小さな花の神は霧散した。毒羽虫の気配が消え、八百万の神は涙した。神々の涙が地を潤すと、小さな芽がそこかしこに現れた。
やがて世界はいちめんのなのはな。
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初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第106回競作「結晶」 / 参加作
執筆年 
2011年?
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