よもぎ/結晶

Last-modified: Thu, 04 Mar 2021 23:43:17 JST (1148d)
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「一刻の猶予もならぬ。封印は溶けてしまったのじゃ」

八百万の神が集まった。

「毒羽虫は飛び立ってしまった。もはや封じることはかなわぬ」

「私が洗い流してしまおう」と雨の神が言った。

「私が雨で射て毒羽虫を地に埋めてしまおう」

「地に埋めれば毒の木が生える」と地の神が言った。

「毒の木には毒の実がなり、それを喰らえば喰らった者もまた毒に冒される」

八百万の神は沈黙した。そこへ

「私が毒を喰らおう」と声がした。

「私がすべての毒を喰らって共に消えよう」と小さな花の神が言った。

「やむをえぬ」「やむをえぬ」

八百万の神が呪を唱える。小さな花の神は手の平を椀の形に捧げ持った。雨の神が毒羽虫を銀の矢で打つ。すべての毒羽虫が小さな花の神の手の平へ吸い込まれていく。

やがて銀の雨が止み、呪を唱える声が止んだ。手の平には燐光ゆらめく青い石がひとつ。小さな花の神はひと息にそれを飲み込んだ。一瞬苦痛に顔を歪め、小さな花の神は霧散した。毒羽虫の気配が消え、八百万の神は涙した。神々の涙が地を潤すと、小さな芽がそこかしこに現れた。

やがて世界はいちめんのなのはな。

ジャンル Edit

神話わたし

カテゴリ Edit

超短編/カ行

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初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第106回競作「結晶」 / 参加作

執筆年 Edit

2011年?

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