よもぎ/うめえよ
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俺が大釜の爺さを助ける!
俺は広い世の中へ飛び出した。
けど、大釜の爺さの封印を解くなんてどうしたらいいんだろう。
俺ぁ爺さの釜底の煤から生まれたちっぽけなススダマだ。
村ん衆みんなの芋汁をいっぺんに炊ける大釜の爺さに比べたら、屁みてぇなもんだ。
けど爺さは偉ぇ坊さまに札を貼られちまった。
爺さが大釜から毒を吐いたって。
そりゃ仕方ねぇよ。
大釜の爺さを化け物にしたのは村ん衆だ。
戦や飢饉で喰うもんがなくなったとき、村ん衆は大釜に毒づいた。
その毒がたまりにたまって大釜の爺さから溢れ出したんだ。
けど爺さは悪くねぇ。絶対悪くねぇ。
俺は何十年も何百年も風に吹かれてさすらった。
「みなさんの給食はここで作られています」
「すげえ!でっけー鍋!」
「これは回転釜です。煮物や汁物を作るときに使います」
「先生!なにか黒いものが付いてます」
「あら。じゃ、いつものお礼にみんなで磨いてあげましょう」
なんと子供らに見つかっちまった。
釜のあちこちを逃げ回ったが、子供らはすぐに俺を見つける。
俺ぁ拭き取られて、釜はピカピカに磨き上げられた。
すると『ありがとよぉ』
遠くで爺さの声がした。封が?これで?解けたのか。
爺さがやってきた。『儂らもちょっと喰ろうていくか』
「手を合わせてください。いただきます」
「いただきます!」
『あぁ、子供らの笑う顔を見ながら喰う飯はええなぁ』
爺さと俺ぁ満ち足りて天へ昇った。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第142回競作「うめえよ」 / 参加作
執筆年 
2015年?