まつじ/黒い羊
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さようなら、を頭のなかでくりかえしています。というはなしを誰にきかせるわけでもありません。
「めぇ」ともなけないわたしは、脳みそにむかってひとりあれこれをはなしかけるので、誰かがこのはなしを知ることがあるとすれば、きっとわたしの脳みそのかけらだかが、どこか転がりおちるかしたということでしょう。
なんて、そんなことがあるでしょうか。
わたしはむかし、とてもわるいことをしました。
なにをしたのか覚えていないのは、あのひとがわたしをこのようにしてから、ひどくわたしがぼんやりするからです。
そのひとは、いきているもののなかにわたしを行かせます。
わたしのすがたをみとめると、たちまち意識も記憶も思い出もなにもかもをなくします。
さみしくて、空想をします。
たくさんのなかまたちといっしょに、みんなを目覚めるための眠りへ連れてゆく白いわたしのようすを、脳みそにはなします。
わたしはこれから先もいろいろをしなすのでしょうか。
わたしが消えたら、誰かがかわりになるのでしょうか。
いつか誰かが、わたしを知るでしょうか。
何度くりかえしたことでしょう。
さようなら。さようなら。さようなら。
わたしのかわりが、まだやってきません。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第81回競作「黒い羊」 / 参加作
執筆年 
2008年?