まつじ/魔法4

Last-modified: Tue, 22 Dec 2020 23:28:31 JST (1220d)
Top > まつじ > 魔法4

読む Edit

「さあてみなさんお立ち会い。」

 と手品師は言った。

 私は手品師に呼ばれ、彼女を残して舞台に上がる。

 スポットライト。

 彼は私をハトに変えると観客に恭しく宣言した。

 そんなことが出来るのか。私はただの客だぞ。

 そう思いながら私も手だけで観客に小さく挨拶する。

 体がすっぽり入る大きな箱に身を縮めると、ゆっくりと蓋が閉じられた。

「種も仕掛けもございません。」

 何も見えない暗い箱の中で、私は手品師の掛け声を聞いた。

 手品師のステッキが蓋を叩く。

 3、2、1…。

「はい!」

 蓋が開いて、歓声が上がった。

 体が上手く動かない。

 慣れない体を無理矢理動かした私は、宙を羽ばたいていた。

 これはどういうことだ。私の体はどこに行ったんだ。誰か、私はここだぞ。誰か、誰か。私は、ハトなんかじゃないんだ。

 会場中を飛びまわったけれど、誰も気付いてはくれない。

 彼女が下の方で手を叩いて喜んでいる。

 手品師は、満場の拍手を受けて、舞台の上で誇らしげにスポットライトを浴びている。 

ジャンル Edit

仕事手品舞台数字彼女わたし

カテゴリ Edit

超短編/マ行

この話が含まれたまとめ Edit

すぐ読める

評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第41回競作「魔法」 / 参加作

執筆年 Edit

2004年?

その他 Edit

Counter: 380, today: 1, yesterday: 0