まつじ/隣りの隣り27
Last-modified: Mon, 24 May 2021 22:59:44 JST (855d)
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三人掛けのソファーの一番右でお茶を飲みながら一人でテレビを見ていると、そのうちに家の猫が、でっぷり、といった具合に横でくつろぎはじめる。ああ、また太ったかなこいつ、と見やるとその向こうに何かいた気がしたが、何もなかった。そりゃあ、そうだ。茶を啜った。
翌週の金曜も、同じ時代劇を見ていた。のそのそっ、と猫が隣りに座る。すると、心なしソファーの一番向こうも沈んだ気がする。誰もいない。予告が終わって、やはり猫の向こうでソファーが浮いた感じがしたのも、たぶん気のせいだと思った。
次回は大型の台風が直撃して放映中止。猫は来たが、何もなかった。
次の週になるとまた、ソファーの左端が少し沈んだ。
四週目くらいに一度湯呑みがカタンと鳴ったきりで、結局彼はなかなか口をつけなかった。
最終回は実に面白かった。見ると、いつ飲んだのか、彼の湯呑みのお茶がなくなっていた。彼がどこかへ行く気配がした。
次からは新番組が始まったが、彼は来なかった。お気に召さないんだろう。また番組が変わればもしかして、と席一つぶん離してテーブルに並べておいた温いお茶をぐい、と飲み干した。
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初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第52回競作「隣りの隣り」 / 正選王作
執筆年 
2005年?
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