まつじ/連れてゆく33
Last-modified: Mon, 07 Jun 2021 23:44:42 JST (653d)
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ほんの酒の勢い、冗談のつもりが、まいったね。
どんどん増えている。
「私ね、すごく面白い所知っているんですよ、楽しくて、気持ち良くて、愉快な、いーい所」
とたまたまいた屋台で話した相手が誰だったのか、全く知らない。ただ、やたら陰気に隣りで酒を飲んでいた男をからかいたくなった、のがいけなかった。
「そりゃあ本当ですか、本当の本当に本当ですか、ねえ、本当なんでしょう」
必死な顔をするのでつい
「え、あー、まあ、ぼちぼち」
と曖昧な返事、となるとたちまち、じゃあそこにワタシ案内して下さいという事になり、そこへ陰気な顔で店の主人が、
「本当なんですか」
屋台を放ってまで行くと言うので、それは止した方がいいんじゃないかと諭すと、屋台ごと行く気だ。
どこかで煙に巻こうと思っていたのだが、知らぬ間に陰気な男や女が連なり真剣な顔をして私の後を追って来る。さすがに謝ろうかと考えたが、しかし今さら。殴られるんじゃなかろうか。などと目先の心配をしているうちにますます謝りにくくなる。
試しに欽ちゃん走りをしてみたら、大のおとな皆が皆真面目な顔をして欽ちゃん走りをするものだからワッハッハ、笑ってしまった。
いやホント。
泣きそうです。
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評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第53回競作「連れてゆく」 / 正選王作
執筆年 
2005年?
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