まつじ/水溶性
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変わったペンだな、とは思ったが、これがいま流行っているのだという。
私が説明書どおり、つらりつらりと文面したためたツルツルした紙を、小さなビンに用意したぬるま湯につけると、紙のうえの文字がするするほどけて消えてしまった。
これで、おしまい。
彼に郵便で送ってみた。
「たとえばテレパシーが出来たらこんな感じなんじゃないかな。」お返しの手紙になった水をくいっと飲むと、彼がまるでテレパシーみたいに伝えてくれた。
通じ合ってる気がしてとてもうれしい。
流行っていたのが急に販売中止になったのは、まったくもってろくでもない人たちのせいで、とくに、これを使えば人を死なすことができるかもしれないなんて考えたやつなんか、それこそこの世から消えちゃってもいいんじゃないかと思う。
実際できるらしいから、こわいのだけれど。
どこか遠い国の人たちに使われるようなウワサも流れた。
というような、ちょっとあぶないペンを私たちはまだこっそり持っている。
彼から届いた手紙を水にひたしては、するりするりゆっくり飲んで、テレパシーを感じる。
もしも遠くの彼に何かあったときは、このインクを飲んだら私がほどけて、水を伝って行けるかな、とか空想したりする。
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この話が含まれたまとめ 
評価/感想 
初出/概要 
超短篇・500文字の心臓 / 第92回競作「水溶性」 / 正選王作
執筆年 
2010年?