まつじ/日の出食堂
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おはようございます、と声を掛けられたが今が朝なのかどうか、何せ時計というものがない世の中である。店内は薄灯り、机と椅子とあとはオヤジが一人いるだけで、やはりそういう類のものは見当たらない。あれば大変なことになる。
時計はなくなった。朝もなくなった。
誰の仕業かうやむやで、よく分からないうちに色々あって色々変わって、適当に起きて仕事しメシを食べ眠り、それでも案外世間はうまく回るようなのだから昔を知る身としては不思議ではある。
日の入り続きのこの時代に、なかなかいかした屋号だぜ。とオヤジを眺める自分も、うろ覚えだが結構な年だったかと気付く。
人間五十年、という言葉が浮かんだ。
品書きには、さば味噌定食コロッケ定食カツ丼他ずらり並んだ最後少し離れて「日の出」の三文字、まさか料理ではあるまいが半ば冗談で注文すると、ああそれは、と返事をする目と目が合う。お客さんはまだ止した方がいい、と視線を手元に、さらにオヤジが一言付け加えた。
そいつは、もう終わりだなってえ頃合に。
それから何度か、やあやあ出た出たと声をあげ、やけに上機嫌で消えていく客を見てはあれがそうかなと思うのだがでも今日はメンチカツ定食にしてみる旨い。
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評価/感想
超短篇・500文字の心臓 / 第64回競作「日の出食堂」 / 参加作
執筆年
2007年?