まつじ/三階建て10

Last-modified: Mon, 31 May 2021 23:27:15 JST (1054d)
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 人に言われるまで、気にしたことがなかった。

 私の生家は、玄関に入るとすぐにまた扉があって、居間に続いている。となれば当然、出かけるなり帰ってくるなり居間を通らなければならない構造で、なんにせよ家人とはよくよく顔を合わす。ほかに四畳半の和室と台所、戸を隔てた狭い廊下の側には風呂場と便所、螺旋になりきれない階段がある。

 さて二階はというと、各々の寝室と物置、それから便所がある。一室だけにベランダがあり、天気のよい日は洗濯物が干されることとなる。

 十何年と暮らすうち床や天井の色が薄らと汚れていったり、一番下の子が猫を拾ってきて、そいつが爪を研ぐようで、どちらの階もそちこちの壁角が毛羽立ったりもしている。

 私に説明できるのはそれくらいだが、あらためて観察すると、三階建てのようにも、たしかに見える。

 玄関に入れば、扉の向こうで、テレビの音声が流れている。

 居間に入れば、おかえりなさいと誰も屈託がない。

 二階を探れば、と考えたが何も見つからない。

 階下から、お茶を淹れるよと声を掛けられ、呑むと答える。

ジャンル Edit

日常TVお茶数字わたし

カテゴリ Edit

超短編/サ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第181回競作「三階建て」 / 参加作

執筆年 Edit

2021年?

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