海音寺ジョー/百年と八日目の蝉

Last-modified: Tue, 26 Jan 2021 23:47:40 JST (1176d)
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 りゆ婆が食べなくなった。おしっこも出なくなった。もうそろそろらしい。KPを呼ぶように、と院長指示があった。キーパーソン。りゆ婆の。りゆの居室に行ってみた。りゆがオレを見とめて片手を差し出した。両手で包むように握ると目をつぶって嬉しそうに握り返してきた。飯もいらないのに肌の温かみは必要なのか。いちばんさいごに欲しいものっていったい何だ?オレはまだ、それが何なのかわからないな。


 その日から百年後、オレはりゆ婆が寝ていたのとまったく同じ部屋ベッドに横たわり、窓から蝉が羽化するのを見た。三人の孫がベッド脇に座って、その光景を一緒に見た。

 蝉の成虫が殻を破る時に、あの日りゆ婆の口元にニヤッと浮かんだ皺を思いだした。

 もういつくたばっても思い残しはないが、いやないはずだったが、今、羽を固めている蝉が、今日からどんな八日間をおくるのかが急に気になってきた。

ジャンル Edit

リアル生命数字オノマトペ

カテゴリ Edit

超短編/ハ行

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評価/感想 Edit

初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第157回競作「百年と八日目の蝉」 / 参加作

執筆年 Edit

2017年?

その他 Edit

日刊デジタルクリエイターズ エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[59]買いものの話 百年と八日目の蝉海音寺ジョー

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