海音寺ジョー/期限切れの言葉

Last-modified: Tue, 26 Jan 2021 23:40:49 JST (1175d)
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 遅番パートのフェイが、嬉しそうにゆってきた。

『松尾さん、新しい日本語覚えたヨ』

 フェイさんは不法入国してきた中国人娘で、最近俺の勤める相々橋筋の居酒屋にバイトで入ってきた。正規の日本語教育を受けていないよって、片言の日本語しか喋れない。

『うん、どんな言葉ですか?』

『イーゴ、イーチェー!』

 それ日本語なんけ?

 フェイが片言で説明を始める。

『人はー、人にー会うときは、それっきり、一度きりにーなるかもしれない。だから、会うはー、大切なことです。という意味ネ』

 それで一期一会のことだとわかった。

それは、イチゴイチエって言います』

『そうカ、イチゴーイチエだたか。日本語難しいねえ』

 フェイは照れ笑いする。

 オレはフェイには丁寧な言葉を使う。悪い言葉や卑語は、彼等はすぐに覚える。でも、接客仕事には敬語ができなあかんから、俺の言葉をフェイが真似するように、わざと丁寧な言葉を使ってるんや。

『フェイ、フェイが日本語をちゃんと話せる、そうなったら、時給が上がる。だから頑張ってください』

『松尾さん、前にも同じこと言ったね。前の前にもネ。ワタシ時給、まだ上がんないヨ?』

『オレだって安月給やぜ。でも、イーゴイーチェは、よく勉強したよな、偉いなフェイ!』

『へへへへ』


 あてにならない口約束で世界は満ち満ちている。ドブタメのような場末の町であくせく働きながら、生活に倦みながら、だけどイチゴイチエはいい言葉だよなーと、その時俺は思った。

作品ページ

ジャンル Edit

リアル場末中国四字熟語笑う日本語数字

カテゴリ Edit

超短編/カ行

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初出/概要 Edit

超短篇・500文字心臓 / 第85回競作「期限切れの言葉」 / 参加作

執筆年 Edit

2009年?

その他 Edit

日刊デジタルクリエイターズ エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[24]語彙消失歌会のはなし 期限切れの言葉海音寺ジョー

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